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「お父さん、こっち、こっち」

 父親の手を引くのは、もちろん、ギャロリエスだ。ならばその父親は……やはり、ギャロに良く似ている。いや、目の大きさや肌の色合いなどは、むしろギャロリエスの方が似ているだろう。だが背格好や雰囲気などの相似は、けっして他人では出せない血のつながりを感じる。

 その男も何かを感じたのだろう。ひどく遠くを見るように目を細めて、ギャロの顔をじっと眺めた。

「……兄さん?」

 まさか兄と呼んでくれるとは、思いもしなかった……ギャロは戸惑う。

 この弟と別れたのは、彼がまだ、ほんの赤ん坊だったときだ。ギャロがこの旅座に売られる日の朝、小さな手をきゅうっと握り締めてゆりかごの中で寝ていた幼子が、兄の顔など覚えているはずは無い。

 その答えは、すぐに語られた。

「ああ、母さんが言っていた通り、本当にギャロリエスにそっくりだ」

「母さんが、俺のことを?」

「よく話してくれたよ。王都にまで名の知れた、超有名道化師だって、さ」

「そうか」

 ギャロは少々混乱する。それは彼の記憶の中の母親とは重ならない。ギャロのもとに金の無心に訪れた母親は、こうも言っていた。

『だって、仕方ないじゃない! 今度の夫はこの子のことを知らない。家には最初っから居なかったことになっている子なんだよ! いまさら、どうやって説明すればいいのよ!』

 あの言葉は二十数年たった今でもことあるごとに胸の奥を抉る。あの瞬間、自分は母親から完全に捨てられたのだと自覚したものだ。

だが、目の前の弟は実に親しげに話しかけてくる。まるでつい昨日別れた兄に挨拶でもするような気安さだ。母がいかにギャロのことをよく話して聞かせたか、うかがえもしよう。

「二人目の父さんとは、長く続かなかったんだ。ナルー兄さんが学校を卒業した年に別れたんだよ」

 自分の産んだ子を隠さなくてはならない重圧に耐えきれなかったのだと、母は言ったそうだ。


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