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 カステアの祭りは一夜だけの祭り。二晩、三晩をかける祭りとは違って、今日、この日に人出は集中する。しかも付近、東西南北の村、合同で行われる祭りなのだから、その賑わいは半端では無い。

 だだっ広いはずの会場は人で埋まった。ギャロの屋台にも子供たちが押し寄せる。だから『秘密』を話す隙などなかった。

「あ~、くそっ! もう一回!」

 小銭を差し出す子供に、わっかを渡す。その作業自体は簡単なものだが、子供というのはちょっとした不正を思いついたりするものだ。誰かが投げ外したわっかを拾って自分のものにしてしまったり、気づかれないように線を踏み越えようとしたり、それ自体は実にたわい無い。目くじらをたてるほどのものでは無い。

 しかし、これが生業であるのだから、それを許すわけにはいかない。店主の裁量でおまけしてやる事はあっても、不正を働く者に景品を渡すわけにはいかないのだ。だから、子供たちにしっかりと目を配り、ルールを守らせることが一番の仕事なのである。

 今もまた一人、ヤギ頭の少年が足元に落ちていたわっかを拾い上げた。

 こんなとき、ギャロは声を荒げたりはしない。その行為に目配りしながら、少年が自らわっかを返してくれるのを待つ。だが、その少年は拾ったわっかを手に、地面に引かれた線の前へと進んだ。ここらが限界である。

「おう、拾ってくれたのか。ありがとな」

 気さくな声音、間抜けたほどの笑顔でギャロが手を出した。

 少年は少しバツが悪そうにあたりを見回したが、そもそも店主が何の疑いも無いふうなのだ。彼のいんちきを疑う視線はない。だから、少年は安心してギャロにわっかを渡した。

「ガキってのは、大人がちゃんと見てやらなくちゃあならん」

 ギャロは美也子に言う。

「この屋台の前にいる間は、どのガキも自分の子供だと思ってみてやるんだ。そうすれば、ちょっとしたいたずらを企んでいることぐらいは、わかるんだよ」

「ギャロは、いいお父さんになりそうね」

「おとっ!」

 彼は恥ずかしそうに目を伏せ、美也子の手をとる。

「お前は……こっちの世界の人間じゃないからな。そこまで望んじゃいないさ。でも、俺は……」

 わっと押し寄せた子供の一団が、その言葉尻を奪った。

「おじさん! わっか!」

「あああ、あいよ!」

 まったくこんな調子であったのだから、美也子は忙しくして午後を過ごした。それでも夕方になれば、メインイベントである奉納舞いに人足が流れる。 

 その蛙頭の親子が訪ねてきたのは、ちょうどそんな頃合い、客もすいたところであった。


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