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美也子は特に甘い物が好きな訳ではない。もちろん嫌いなわけでもないが、むしろ屋台飯なら焼きそばやじゃがバターなんかを好むクチだ。だが、付き合う男たちはどういうわけか、彼女が甘い物好きなのだと誤解した。

ある男は「女の子は、甘い物は別腹なんでしょ」とケーキバイキングに誘い、またある者は、遊びに来るたびに銘店の甘ったるいシュークリームを手土産に提げてきた。もちろん、美也子だって最初から相手の厚意を突っぱねるほど依怙地ではない。最初の一回、二回は喜んで見せるのだが、そうすると誤解した男たちはさらに甘い物を買って来ようとするのだから……

「あのね、ギャロ。私、甘い物はそんなに好きじゃない」

 意を決しての一言に彼が返した返事は、驚くほどあっさりとしたものだった。

「ああ、そうか。そういえば、お前は酒のイケる口だもんな」

 ギャロは食べ物の包みをいくつか解いてみせる。

「つまみ系の方がいいか。これなんか美味いぞ?」

 あまりにも普通すぎる反応に、美也子のほうがぼんやりと立ち尽くしてしまった。

「美也子?」

 不安そうな声に、美也子が少し震える。それは、涙の流れる合図でもあった。

「ど、どうした! どこか痛いのか?」

 彼の腕がうろたえて、引き寄せて、抱きしめてくれる。だから、小さな声も彼に届く。

「女の子は……甘い物好きって……」

「そんなの、一般論だ。ウチの女衆を見れば解るだろ。大酒のみで、菓子よりもつまみが好きなやつなんていくらでもいる」

「嫌いに……ならない?」

「ばかだなあ。そんなんで嫌うぐらいなら、女房になんてしない」

 ギャロはその証のように、美也子をさらに強く抱き寄せた。それは全てを受け止める覚悟の行為だ。

「食いもんの好みは毎日の問題だ。一緒に生活するのに、知らなきゃマズいだろ? だから、遠慮しないで言えよ」

「うん」

「食いもんだけじゃない。その他のことも、俺はお前の望むようにしてやりたい。だから、遠慮や、秘密は無しだ。それが夫婦ってもんだろう?」

 美也子の胸がつくんと痛む。秘密なら、自ら望んで作ってしまった。

 ギャリエスとの打ち合わせでは、彼女が父親を連れて屋台を訪れる手はずになっている。そ知らぬふりをして、兄弟を鉢合わせさせようと言うのだ。それは、小さな友達と指切りを交わした計画なのだから、秘密にしなくてはならない。

 だけど、それで良かったのだろうか。


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