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 翌朝、二人の様子から大方の者はナニがあったのかを気取ったはずだ。何しろ、ギャロの態度があからさますぎる。

 今も朝食の席で、彼は自分の女房にぴったりと寄り添っていた。

「ちょっと、ご飯、食べにくいんだけど?」

 たしなめる声さえ甘いと感じるのだろうか、彼は少し頬を染めて「そうか」と返しただけであった。

 とはいえ、美也子も夕べの行為が夢ではなかったと実感させられる状況が嬉しくて仕方ないのだから、強くつき放す気にはなれない。代わりにちょっと語気を荒げて、夫の肩をぽんぽんと叩いた。

「ほら、早く食べちゃって。今日は屋台を組んで、そのあとはネックレス作りの続きもしなくっちゃだし、忙しいのよ」

「そのことなんだがな、屋台は俺が組んでおく。お前は馬車に残って、首輪を作っていろ」

「だって! 私も屋台の組み方を覚えなくちゃ」

「今度、ゆっくり教えてやるさ。だって、これからは、その……」

 言葉にするのは初めてだ。だから、ギャロの声は少し小さく、沈む。

「ずっと一緒に、居てくれるんだろう?」

 美也子の答えは底抜けに明るく、心強いものであった。

「当たり前でしょ。それでも、早く仕事を覚えたいの!」

「ならば、やっぱり今日は大人しくしていろ。祭りは明日からが本番なんだからな」

 ギャロは美也子の前髪を掻き分け、なだらかな額に大きな唇を押し付ける。

「少し熱っぽいな」

 たらいの湯浴みでは体を温め切れなかったのだろう。今朝方から何度か、咳き込みもしている。

「その、アレで雨に濡れたから……」

 大きな体を小さく丸め、上目で答えを待つしぐさは、おびえた子供のようだ。だから、美也子も強い言葉をためらってしまう。

「解ったから。今日は馬車で大人しくしてる。それでいいんでしょ?」

「ああ、それでいい。なあに、心配するな。屋台の組み立てなんか、いつも一人でやってたんだ」

 美也子の頭をなでるギャロの手は温かい。いや、濡肌種である彼の体温は、美也子のそれよりもかなり低いのだが、手つきがなによりも温かい。

 ぐしゃぐしゃと髪をかき回されながら、美也子は心にぼんやりと浮かぶ記憶に囚われていた。

……お父さんの手だ。

 遠い思い出の中にしか存在しない温もり。それを今でもほんのりと覚えているのは、それが何よりも大好きなぬくもりだったから……

 だが、彼が父親で無いことなど良く心得ている。不埒な蜜事の続きのように、彼の手は艶髪をなでおろし、後頭部を支える。

 低い声が強請った。

「で、な? い、行ってらっしゃいの、ちゅう、とか……」

 ああ、この夫は、どうしてこうも甘ったれなのだろう。

 美也子はすばやくあたりを見回し、辺りを確認する。幸いにも食事の済んだものは支度のために席を立ち、子供たちはデザートに出された果物の奪い合いに忙しい。何人か、顔を横に向けているものは気を使っているのだろう。

「美也子?」

 大きな目玉がきょろりと美也子を誘う。

「特別……だからね」

 美也子はすばやく顔を寄せ、横に大きな彼の唇のちょうど真ん中に、小さなリップ音を降らせた。


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