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美也子は近くに座っていた猫頭の娘に尋ねる。
「ギャロはどこへ?」
「頭を冷やしに行ったんだろう。大雨の時には良くあることさ」
雨が降ると気分が高揚するのは、濡肌種の特性だ。仕方が無い。
だが、その『仕方が無い』でもめごとなど起こしてはよろしく無いだろうと、そう考えてギャロは特に大雨の時を一人で過ごすのだと言う。
「一人でって、どこへ?」
「さあね。そこらで雨に打たれているんだろうよ」
いくら外見が蛙に似ていようとも、彼は蛙ではない。濡肌種というれっきとした『人間』なのだ。心もあるし、孤独だって知っている。ましてや母を亡くしたことを知った今夜、雨に打たれて何を思うのだろう。
ビーズの小箱をどけて立つ美也子に、猫頭の娘が言った。
「行くのかい?」
「はい。私は『ギャロの女房』なんだし」
「じゃあ、これをもってお行きよ」
彼女は自分の小箱から手のひらほどの石を取り出して美也子に渡す。
「雨でも降ったらランプは役に立たないからね。これなら使い捨てだが、4刻はもつ」
「これは?」
「魔導光石さ。使うときは手近な石かなんかで、がつんと叩けば光り始めるからね」
「でも、高価なものなんじゃ……」
「いただきもんさ。それに、あたしはあんたより夜目が利く種族だからね」
礼を言って表に出れば、重く垂れ込めた雷雲は薄く紫がかった光を含み、真闇を和らげていた。それでも醜怪種が歩くには暗すぎだ。美也子は足元から手探りで石を拾い、魔導光石に打ち付けた。打たれたところからぼんやりと光が広がり、やがてそれは白っぽい明かりの石となる。
美也子はその明かりをかざして歩き始めた。




