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吸盤のついた長めの指はぴったりと実を捉え、固定する。硬い外皮の一点に押し当てられた錐の先端は、小気味良く回った。それは決して力任せに押し入るような無礼は見せず、穴を穿ちやすい薄い部分を探り、試すようにゆっくりと、静かに沈みこんでゆく。

わずかな削りくずを落として、あっという間に錐は貫通した。

「すごい!」

 素直な賞賛を贈る美也子に、ギャロが照れた笑いを返す。

「なあに、こんなもん……」

 ネルが言葉尻を食う。

「な、な、すごいだろ? ギャロは器用でさあ、細工の親方に付いたのは二十歳過ぎてからなんだぜ。それでも、才能って言うんだろうな、あっという間にコツを覚えて、今じゃこの座の稼ぎ頭だ。だけど、道化の腕はもっとすごいんだぜ? 俺も舞台は一度しか見たことないけど……」

「ネル!」

 ギャロが鋭くたしなめる。放っておいたらこの男は、何から何まで話してしまいかねない。過去のオンナの話でもされてはみっともないと、そう思ってのことだ。

ネルは粘っこい口元をにょろりと尖らせる。

「んだよ……」

「お前はここで穴あけを手伝え。美也子、お前はこれに通す紐を探して来い。なあに、座長のところにいけばいいだけの話だ」

 ならばついでと、美也子はしおりの挟まった本をつかんで立ち上がった。

「ゆっくり行って来いよ。その間にネロと穴あけを終わらせておくからな」

 美也子を送り出したギャロは、隣に座った男に鋭い視線をくれる。

「……あんまり、美也子に近づくな」

「ふん? そんなに近づいていたかなあ」

「近づいていた。もう少しで顔が触れるかと思ったぞ」

「頬ぐらい。あんた、もっといいところに触れ……ああああ! まさか、まだ?」

「まだ? なんだよ」

「あんた、俺らが馬車あけてやったの、何のためだと思ってるんだよ!」

「うるさいな。美也子は、そういう女じゃないんだよ」

 ぷいっと横を向いた男の、目の周りが真っ赤に紅潮している。

「俺は、別に性欲処理の道具が欲しくて美也子と結婚したわけじゃないんだ」

「性欲って……あっきれたな」

 初恋かよ、とネロは思う。

 あまりに青臭い恋だ。人生の酸いも甘いも噛み分けた男が言うセリフじゃない。さっきのやきもちにしてもそうだ。「俺の女に触るな」など、全く子供じみている。

「まあ、ゆっくりでいいんじゃないの。この座には『ギャロの女房』に手ぇ出そうなんてやつはいねえよ」

「あ?」

「さ~て、さっさと仕事を終わらせて、邪魔者は退散しましょうかね」

 おどけた仕草で、ネロは木の実をつまみあげた。


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