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だが、惑う美也子の前で幼子が答えたのは、聞いたことも無い名前。
「メネル」
ギャロはさらに唇を震わせ、切ない声を押し出す。
「おばあちゃんは……元気か?」
美也子は合点した。
「ギャロ、どっちのおばあちゃんか、ちゃんと言わなくちゃ!」
「ああ、そうか。父方のおばあちゃんは元気か」
蛙顔の少女が、くりくりと目玉を動かす。
「そっちのおばあちゃんは、去年、死んじゃった」
「死んだ……か」
広幅の肩ががっくりと落ちる。だが天を仰いだ大きな目玉は、なぜだろうか、どこか安堵を思わせるものであった。
蛙頭の少女はきゅうっとしたまぶたを引き上げて、ギャロの顔を見上げる。
「おじちゃん、お父さんを知っているの?」
「ああ。ちょっとだけだがな」
あんなに小さな時分別れた弟だ。兄が居たことを覚えているかすら怪しい、とギャロは思う。ならば、この少女に伯父だと名乗ることさえ憚られる。
だから小さな声で、ギャロは聞く。
「父ちゃんは元気か?」
「うん。今日も野良に行ってるよ」
「そうか、元気ならいい」
あまり離れていない遠さで、子供たちの声が聞こえた。少女がぴょこんと飛び上がる。
「あ、かくれんぼしてたんだ。またね」
「ああ、またな」
また、などないことは解っている。それでも気さくに手を振る蛙頭に、美也子の胸が小さく痛む。だから、本当に本能的な叫びだったのだ。
「待って!」
背中を向けようとしていた少女が驚いて振り向く。それはギャロをも振り向かせた。
(そっくり)
大小の蛙頭。大きな目玉をくりっと見開いた表情も、肩を斜めに構えた角度まで……それは二人の血縁を感じさせて微笑ましい。だからこそ、このまま別れさせてはいけないと、美也子は策を探した。
「ああ、ええと……」
少女の手元を見れば、草の実をつなげたブレスレットをつけている。
「これ……かわいいわね」
「えへへ、ジャカジャカの実で作ったの」
少女が得意げにかざして見せた小さくて丸い実は、つやのある灰色の加減も、コチリと硬質な手触りも、ジュズダマの実に良く似ていた。