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席に着きながら、ギャロに訊ねる。
「ねえ、あの腕輪……」
美也子の記憶では、年配の女性なら大概がつけているものだ。若い娘でも、時々つけているのを見かける。何か意味があるのかも知れない。
はたして、ギャロは目の縁を薄っすらと赤らめながら答えた。
「ああ、そうか、お前にも買ってやらなきゃならんな」
店の奥から温まった油に何かを放り込む音、ふわっと立ち上るにんにくの香気、それにおばさんの声。
「なんだい、あんたたち、そういう間柄なのかい」
「そういう?」
きょとんと首をかしげた美也子に、ギャロは搾り出すような声で告げた。
「既婚の……証だ。結婚腕輪ってやつだ」
「あ!!」
美也子の知る限り、こちらの世界では指輪はポピュラーなものではない。吸盤がついていたり、獣然とした短くて太い指にあわせて指輪を作るのは、容易なことではないのだろう。旅座仲間の装飾品も、耳や腕を飾るものが多い。
「ち、違うの。要る、要らないじゃなくてね、マーケティングを……」
「まけてぃんぐ?」
「ギャロの屋台は男の子向けの景品ばかりでしょう。だけど、お祭りには女の子も来るじゃない」
女のほうが商売の話に聡いというのは、ここでも同じなのだろうか。美也子の言葉を拾ったのは、大皿を抱えて出て来た蛙頭の女のほうだ。
「なるほど、女の子向けの景品を考えてるんだね」
「ええ。あっち……私のいた地方では、小さい女の子は大人の真似をしてお化粧ごっこしたり、おしゃれしたりするのが好きだから」
「なるほど、悪くないアイディアだ。この辺の子供も、やっぱり女の子はオマセさんで、おしゃれするのが好きだからね」
おばさんは店の奥、厨房よりもさらに奥から自分の宝石箱を取り出して、美也子に貸し与えた。
「指輪はどうしてもオーダーメイドになるからね、高価だし、私も持ってないよ。逆に腕輪や首飾りなんかが好まれるね」
「耳飾は?」
「ああ、獣顔には好まれるが、あたしたちは、ほら……つけるところがないだろ?」
「やっぱり、腕輪と首飾りか……」
おばさんの手持ちの中には、少し大ぶりではあるがガラスのビーズを繊細に編んだものも入っている。
「言っとくけど、ここは田舎だからね。ビーズなんて小じゃれたものは売ってないよ」
「そうね。それにガラスのビーズでは重くて、子供向きじゃないわ」
ギャロが口を差し挟む。
「金属の加工は、俺じゃ無理だぞ。第一に道具が無い」
「う~ん。やっぱり駄目か……」