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だから、ギャロの言葉は店の女将に対するからかいだろう。
「こんな汚い店だけど、味は確かなんだ。この村で興行のときは、いつもここに来る」
はたして、前掛けで手を拭きながら出て来た蛙頭の女は、すこぶる愛想のいい声で切り返す。
「汚い店は余計だよ!」
ギャロの隣に立つ美也子に目を留めたその女は、前掛けで拭う手元も止めた。
「あれ、めずらしいねえ」
「ああ、醜怪種だからな」
「そうじゃないよ。あんたが女連れで、しかもそんなに大事そうに……ねえ?」
彼女の目線は二人の手元に注がれている。ギャロはそのとき初めて、肩を引き寄せるほど強く手をつないでしまっていることに気づいた。
「や、これは……その……」
「ああ、安心したよ。あんたもついに、か」
「ついに、なんだよ」
「いいから、さっさとあいてる席に座りな。今日はおごりだ」
「おごってもらう云われはない」
「可愛い息子が彼女を連れてきたんだ。祝ってあげたいんだよ」
「おばさん!!」
気安いやり取りを美也子はいぶかしむ。彼は売られた子供だと、あの本には書いてあった。ならば彼を売った母親がどこかで暮らしていてもおかしくはないのだから……
「違うぞ、別に本当に血縁のある叔母ってわけじゃない」
ギャロのような蛙頭の濡肌種は珍しいものではない。ここに来る前の町でも普通に見かけた。人工の5分の1を占めるとも言われる、ひどくポピュラーな種族だ。血縁がなくてもおかしくはなかろう。
「それに、ちっとも似てないだろう? あたしは美人で有名だからねえ」
「よく言うよ」
本当に美人なのかもしれない。その婦人は目の間が程よく詰まり気味で、鼻先までがすうっとなだらかな弧を描いている。かように細かな個性はあるのだから、美醜の感覚までは解からずとも、美也子にはギャロと他の蛙頭の判別が出来る。




