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謝罪の言葉だけが美也子を撫でる。
「すまんな。醜怪種の女にはあったことがないんで、年齢など良く解らなくてな」
頭部の構造は蛙そのもの。だが、表情は違う。
大きな口の端を大きく下げ、申し訳なさそうに視線まで下げた彼をこれ以上責めるのは、酷なことに思えた。美也子はふうっと表情を緩めて見せる。
「若く見られたんだから、むしろ喜ばなくっちゃね」
「その、怒ってないのか? 胸を……見た……とか?」
「だって、種族が違うんでしょ。別にどうってこと無いわよ?」
「うむ。あんたがそう思ってるなら……」
随分と歯切れの悪い言葉だ。なにかを伝えようとしてはいても、それを言いあぐねている感がはっきりと見て取れる。
「本当に、もう怒ってないからね」
「うむぅ……」
「そうだ、名前! まずは名前なんでしょ? 私は美也子」
「ミャーコ、いい名だ」
御伽噺の人物風に、少し発音の歪められた自分の名前。美也子はここが『異界』だなのと改めて実感した。
(ちょうど良かったじゃない。現実の男には飽き飽きしていたんだし)
おとぎ話の国で、運命の相手を探す旅に出るのも悪くは無い。ファンタジーなら良くある話だ。
そんな感慨など知らず、蛙男は握手を求めて片手を差し出す。
「俺はギャロ。見てのとおり、ただのおっさんだ」
どうせなら恋の相手は『オジサマ』ではなく、王子様がいい……そう思いながら握った彼の手はひんやりと湿った感触で、指先の吸盤は僅かにざらついていた。
顔の半分を割るほど大きな蛙口が、人懐っこい笑顔の形に開く。
「とりあえず、俺たちの寝馬車に来るといい」
「寝馬車?」
「ああ、俺たちは祭り稼業だからな」