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 自分だって幽霊の実在を信じていないのだから、そういった観念的な話だと気づくべきだった。

 死んだ人間には二度と会えない。どれほど会いたいと願っても。

(二度と会えない?)

……ならば美也子を異界に帰すのは、殺すようなものではないのか。明るい笑顔にも、強がりの言葉も、そしてこの憂いを含んだ表情にさえ、触れることが出来なくなる。それでも幸せならばいい、生きていてくれれば良いなんて嘘っぱちだ。

 本当は手元においておきたい。笑う顔も、怒った表情も、寂しい夜にそっと掌だけで伝えてくる涙も、全てを独占したい。

 なのに、なぜこうも躍起になって、この娘を手放そうとする……?

 『欲しい』と『壊してしまいたい』がない交ぜになった気持ち。その気持ちの向けどころがなくて、ギャロは戸惑い続けているのだ。そもそもが、この気持ちを表す言葉さえ持ち合わせては居ない。

「ああ、まあ……買い物にでも行かないか」

 代わりに口をついたのは、間抜けた言葉であった。

「屋台の準備なんか明日にならなきゃできねえ。そこらを散歩でもして……」

 それがギャロの気遣いだと悟ったのであろう。美也子が明るい言葉を返す。

「デート?」

「ばばばばばば! 馬鹿な! ただ、いくら村ったって店屋ぐらいはあるだろうから、買い物を……それに、夫婦でデートなんて、おかしいだろう」

「あら、夫婦だって、二人で出かけたらデートでしょ」

「そう……なのか。じゃあ、一緒に出かけるのは……控えた方が……だって、本当の夫婦じゃ、ねえんだし」

 ギャロの大きな目玉はきょとりと地面を見回した。美也子はそんな彼の手を引く。

「冗談よ。私も買いたい物があるし、行きましょ」

「いいのか?」

「良いも悪いも、まだ買い物は不慣れだから、一人じゃ不安なの」

「そういうことなら……」

 ギャロは美也子の手を握り返す。

「潰れてなけりゃあ、本屋があるはずだ。お前の好きそうな本があるといいんだが」

 街場のようにぎっしりとではないが、ここは村の中心地であり、街道沿いにはそれなりに店が並んでいる。

 手始めにギャロは、鄙びた食堂に立ち寄った。

「まずは腹ごしらえだ」

 魅せの中は何もかもが古いが、決して不潔なわけではない。艶がなくなるほど擦り切れた床にはチリ一つ落ちてないし、数え切れないほどの客を座らせてきたであろう椅子は、逆に年月による磨きがかかって、座面の木がてかてかと光っている。

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