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宴が始まる。男たちは早々に酒を酌み交わし、女たちは浮かれて歌など歌っていた。
その中心に座らされたギャロは、珍しく正装なぞしている。もっとも、舞台衣装の中から掻き集めたジャケットで装っただけなのだが、内輪だけの『仮』祝言だと思えば上等すぎるほどだ。そして隣に並ぶ美也子は……
(綺麗だ)
座長が急ぎで裾あげしたドレスはピンク色。ふんわりと広がったスカート部が彼女の愛くるしい背丈を強調する。そして、上品に、少し深めに開いた背中はつるりとなだらかで、白かった。
「すまないな、美也子。形だけのことだから」
小声で聞かせた謝罪に振り向いた美也子は、華のような笑顔であった。
「こっちこそごめんね。彼女とか、できなくなっちゃうね」
「そんなもの、当面作る予定は無い」
美也子の顔がよりいっそうに輝いたようにも見えた。だが、それはうぬぼれかもしれない。それに乗っかるのはずるいことだ。
そうと知ってはいたが、ギャロは白く細い指をそっと引き寄せる。
「この方が、それっぽく見えるだろ」
美也子は一瞬息を呑む。だがすぐに、指先が水かきの間に絡まった。
「うん……そうね」
近づいた肩先の距離を、参列者たちは見逃してはくれない。わっと歓声が上がる。
「誓いの『ちゅう』とかしちゃえよ!」
ギャロは繋いでいないほうの手を振った。
「や、いや、そういうのは……ここにはガキどもも居るし」
「何いってんだい、別にディープなのかませって言っているわけじゃないよ」
「祝言にちゅうはつきものだろ!」
美也子が不安そうな顔でギャロを見上げる。
「ギャロ……」
「解かってる。連中は俺が黙らせるから、心配するな」
「そうじゃなくって……いいよ、キスぐらい」
「はえあっ?」
花婿は実に無様な叫びをあげ、それから、ふるりと大きく胴振るった。
「いや、お前がいいって言うなら、俺にも異存は無い。だけど、本当にいいのか? これは嘘の祝言なんだぞ」
「だからなおさら、誓いのキスぐらいしたほうが、それっぽく見えるでしょ?」
その言葉がギャロの中の何かに火をつけた。ぐいっと美也子を引き寄せる。
「皆を納得させるためだ。本当に、それだけだからな」
大きな大きな蛙口が、美也子の顔に近づいた。