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ギャロは、少し離れて細工物をしながら、その様子を見守っている。その表情は柔かく、口元からは微笑がこぼれる。
「何やってんだよ、全く」
その肩を後ろからネルが叩いた。
「いやいやいや、いいねえ……新婚って感じで」
「バカ言うな。まだ婚約しただけだ」
「祝言はいつにする?」
「だから、俺の話を聞け」
夕食を煮る大鍋を抱えた猪頭の婦人が通りかかる。彼女はギャロの言葉を聞きとがめた。
「だめだよ。せめて仮祝言だけでもあげなきゃ」
「そういう面倒くさいのはいらん」
「何が面倒くさいんだい! これだから男ってのは」
その罵声に手の空いているものたちが集まる。両生類頭の座長が、ずいとギャロに詰め寄った。
「何の騒ぎだい」
「別に。個人的なことだ。あんたには関係ない」
ぷいと横を向いたギャロに代わって、カタツムリ頭が口を開いた。
「聞いてくださいよ。こいつ、祝言もあげないつもりですよ」
「別にあげないとは言ってないだろう。ただ、まだ早いと言っているんだ。俺たちはこれからゆっくりとお互いを知り合っていこうと、だな……」
両生類特有の、ぷにっとした指がギャロの頭をぐいっと掴む。
「あんた、ゆっくりとなんて余裕のある年かい?」
「だから逆にだな、ミャーコみたいに若い娘を一時の感情だけで縛り付けるわけには……痛てて、痛いって」
「痛いようにしてやってるんだよ。そういうケジメもつけられない、だらしない男に育てたつもりは無いよ!」
座長の握力から逃れようともがくギャロの耳元で、ネルがぬろりと囁いた。
「そういえば、軽業のゴーリもミャーコが可愛いって言ってたっけ」
「ゴーリだと!」
軽業師のゴーリは熊頭の大男だ。ぽんぽんと跳ねて身軽さを見せる芸ではなく、女三人を肩に乗せて支える人間ピラミッドを得意としているといえば、そのガタイのよさも知れよう。
そんな体であの小柄な美也子を押し倒したりしたら……




