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……最近では夢を見るのが怖い。どちらの世界を覗き込んでいるのか、曖昧すぎて、怖い……。
『あちら側』の夢を見た。いつもどおり出社して、部長のお小言を喰らって、ぐったりと疲れて家に帰る、単調な日常の夢を……目を覚まして身を起こせば、暗い馬車の中にいくつも響くいびきは『こちら側』が現実であることを告げている。
ふと横を見れば、その男はすでに眠っていた。
「ギャロ、ごめんね」
そっと呟く声に、大きな蛙口がムニムニと寝言を食む。
あの後、美也子と入れ替わりに座長に呼び出された彼が、どれほどの責を受けたのかは知らない。ただ不機嫌そうな顔をして、戻ってくるなりごろりと寝転んでしまった様子から、その程度を窺うしかなかった。
「ギャロ……」
甘えてはいけないだろうか。
夢のせいで不安定な心が、彼の腕を欲している。深く眠っている今なら、気づかれぬようにあの胸に擦り寄って、ほんの少し泣くぐらい……
(だめ)
ばさりと上掛けを被って彼に背を向ける。
自分が甘えベタなのは自覚している。男は美也子の外見に、ふわふわと愛くるしく、甘ったれた性格を思い重ねるのだ。それに応じてか弱い女を演じれば良かったのだろうに。
(だって、そういう性格なんだもん)
だから男たちは実に身勝手な別れの言葉を口にする。気の強い美也子になら、何を言っても傷つかないとでも思っているのだろうか。
(性格ブスだもん)
ギャロにそう思われるのが何よりも怖い。背中にかかる安らかないびきが冷たい罵りに変わるのが……怖い。
(いいの。今のままが一番、いい)
今夜はもう眠れそうに無い。上掛けに顔を押し付けて、美也子は泣いていた。