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 祭りの最終日だというのに、ギャロは明らかにおかしかった。

 まずは客に渡す釣りを数え間違う。慎重な彼にしては珍しい凡ミスだ。極めつけは一番見栄えのする大きな彫刻を早々に客に渡してしまったことだろう。いつもなら取れそうで取れない微妙な位置調整がお得意であるのに、本当に凡ミスだ。 

 ネルは隣の屋台でチョコシロップをかけた果物を商っていたが、しょぼくれた蛙男を見かねて声をかける。

「ここは俺が見といてやるよ。気晴らしに舞台でも見てきちゃあどうだい」

「しかし……だな」

「悪いが、今夜はさほど集客も見込めないだろう?」

 そのとおり。客は小さな作り物ばかりが並ぶ様子をひやかしては通り過ぎる。時々気まぐれに幼子が小銭を差し出すほかには、客らしい客も無い。

「正直に言うと、そんな辛気臭い顔で隣に立っていられては迷惑なんだよ。こっちの客まで逃げちまわあ」

 カタツムリ顔を精一杯に歪めての悪態は、彼なりの気遣いだ。だが、この頑固者はそのぐらいでは動かないだろう。

 だから、背中を押す言葉をもう一言。

「確かに、可愛いよな。ミャーコは」

「な……何っ!」

 ギャロが身を乗り出す。

「いっ、言っておくがなあ、結構手のかかる女だぞ。常識もよく知らんから、何から何まで教えてやらなきゃならんし、ワガママも言う。それになあ……」

「あ~、はいはい。俺を警戒することはねえよ。人のモンに手ぇ出さなきゃならないほど飢えてないンでな」

 ぬめっとした顔を好色そうに歪めて一言付け加えるのを、ネルは忘れなかった。

「もっとも、誰のモンでも無いってンなら、一度ぐらいはオネガイしたいねぇ」

「くそ!」

 弾かれたようにギャロが立ち上がる。

「釣りはそこの箱に入ってる。売り上げもそこに突っ込んでおいてくれればいい。あと、あんまりにも小さいガキにはおまけしてやれ。そっちの手前の線から投げさせてやればいいんだ」

「解かってるよ。さっさと行けば?」

「あまりにヒマだから、ちょっと休憩するだけだ。本当にそれだけなんだからな!」

「それも解かってるって」

 ステップを踏むような、おかしな足取りで走り去る背中。それを見送るネルは小さく笑った。

「思春期のガキじゃあるまいしよぉ」

 女一人のことであんなに取り乱す彼を見るのは初めてだ。だからこそ、その想いが届けばいいとも思う。

「大丈夫。ミャーコもあんたのこと、気に入っているみたいだしよぉ」

 こっそりと呟いた後押しの言葉を遮って、客が店先を覗く。

「へい、らっしぇやし!」

 カタツムリ頭は飛び切りに愛想のいい声をあげた。

 祭りの夜は、まだ終わらない。


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