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 祝儀も大事な収入のうちだと、美也子は座長から教わった。

「だがな、これはダメだ。絶対にもらうな」

 ギャロは先ほどの犬頭のように、紙幣を両手で挟みこむ。

「それは、なんでダメなのよ?」

「なんでって……」

 土緑色の顔が高潮し、大きな目玉がせわしなく動く。喉元から蛙鳴がこぼれた。

「……『お前を買ってやる』のサインだ」

「買う……!」

 もちろん、夜を買うのだということは、美也子にも容易に想像がついた。『オガミ』と呼ばれるその行為の三割もやはり一座の収入になるゆえ、中にはオガミを奨励する旅座もあるぐらいだ。

「まあ、ウチでも禁じられてはいないがな。それでも贅沢でもしない限り、必要はないだろうよ」

 旅中の食事は支給される。そのほかの日用品なども必要に応じて座長が用意してくれるのだから、祝儀の三割も搾取とは呼べないだろう。それでもさらに金の欲しい者は自己責任で、というのがギャロたちのいる一座の暗黙のルールであった。

「でも……だって……魔道師に払うお金を貯めなくっちゃ、だし……」

 殊勝な言葉を語る唇が小さく震えている。

 そっと触れてしまいそうになる指先を、札と共にポケットに突っ込んで、ギャロは不機嫌そうに言い放った。

「あんたの世界じゃあ、体を売るってのはそんなに簡単なことなのか」

 そんなわけは無い。彼女の震える肩が、それを明確に語っている。じっと見ていると、こっちまで震えをうつされてしまいそうだ。

「考えても見ろ。そんなふしだらな真似をして、もとの世界に帰った後で傷つかないか?」

 美也子は俯いたまま小さく「だって」と言ったきりだった。

「まあ、甘えとけ。女に甘えられるってのは、男にとっちゃあうれしいモンなんだよ」

 ギャロの最後の言葉は優しい。美也子の耳朶には甘い痺れが残った。


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