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「だから、まあ、魔法みたいなものではあるけどな」
「その魔道師に頼めば、元の世界へ返してくれるの?」
「どの魔道師でもいいってわけじゃない。空間移送を専門に研究していた魔道師を探すのは手間だろうよ。それに、奴らがいくら吹っかけてくるか、相場すら解からない」
「お金が……必要なの?」
「そりゃあそうだろう。そっちの世界じゃどうだか知らないが、物を食うにだって、酒を飲むにだって金は要る」
「そうよね、幻想じゃないんだもの」
ぐびりと喉に落ちる酒の苦味は間違いもない、現実のものだ。
「金のことはまあ……俺も協力してやるさ。独り身の男ってのは、金の使い道がなくってな」
「どうして、そこまでしてくれるの?」
ギャロは、その答えを惑った。
自分でも良くは解からない。頼る者の無い世界に落ちてしまった彼女を憐れんでいるのは確かだ。それを何とか助けてやりたいと思うのは、おせっかいな自分の性分だろう。
だがここまで踏み込んで……感謝の気持ちまで買い取ろうとしている理由は?
「……俺は孤児だ」
言葉と共に理由を探す。
「だから人一倍、家族ってモンに憧れがあってな」
山羊頭の親子のむつまじい光景が、脳裏に浮かんだ。
「だから執着しちまうんだろうな」
どれほど望んでも、親に手を引かれるような子供の頃に戻れないことなど知っている。
「俺の精神的な満足ってやつだ。俺は一生家族ってものを知ることはないだろうから、せめてお前を家族のところに返せば、なんとなく家族ってものに触れたような気になれるだろう?」
「よく解からないけど、そういうものなの?」
「たぶん、そういうものだ。だから、俺が俺の勝手でやることだから気にするな」
ギャロは目玉をグリグリと回して笑った。
「まあ、それもいつになるかって話だからな、もう少しこの世界のやり方ってのを覚えたほうがいい」
ギャロは紙幣を取り出し、何気ない仕草で美也子に差し出す。
「こうやって出されたら、普通にご祝儀だ。遠慮なくもらえばいい」
旅回りの木戸銭は、出し物にもよるが決して高いものではない。