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 店内に何本も渡された陳列棒には衣服がぎっしりと吊るされ、つんと鼻を刺すこなれていない染料の匂いが、新品であることを主張していた。

「これなんかどうだ?」

 ギャロが真っ先に手にしたのは南国花を思わせる真っ赤なドレスだ。ゆったりとドレープが寄るほど贅沢に布が使われ、同色の布地でたっぷりとギャザーを集めて縫いとめた飾りがビラビラと揺れる。

 大人っぽいロング丈のデザインは、小柄な美也子にはさぞかし……

「笑いをとって来いってこと?」

「いや、日常じゃ着られないぐらい派手でも、舞台に上がっちまえば地味に見えるもんだ。それに、派手な色彩はどうしても目を引くからな。目くらましみたいな効果も……」

 ダメだ。これ以上の言葉は飾ることすらない本音だ。


……聞かせたら、『誤解』されるに違いない。


 本当は美也子を舞台組になどしたくは無かった。自分の手元において輪投げ屋の手伝いなどさせようと思っていたのである。

(見世物にしたくないのは本当だ)

 だが、試しに簡単な歌など歌わせてみたら、これが存外に上手いのである。

「一人カラオケで鍛えているからよ」

 そのヒトリカラオケなるものが何かは解からないが、異界人も歌などたしなむのだと親近感を覚えた。そう、彼女はこの世界の人類となんら変わるところ無い、一個の人格だ。

(だから、他の男の目に留まったりしたら……本当に玉の輿になっちまうだろ?)

 彼女は解かっていない。醜怪種に見世物とするだけの価値があるのは希少性だけではなく、その容姿もあるのだと。

 種族の特徴は多々あれど、衣服一枚を剥いだ体の構造はどの種も大差ない。美也子の感覚を借りるなら、『人間の体に動物の頭』だろう。もちろん皮膚に多少の違いはある。猫や猪の頭を持つ『牙爪種』なら全身にびっしりと生えた毛皮が特徴であるし、ギャロのような濡肌種なら薄く張り付くような、僅かに湿った皮膚が特徴だ。

 そして件の醜怪種は……無毛であるがゆえに全ての種に通じる美しさを備えている。おまけに美也子は若くて愛らしい。

(だから、俺は置いていかれるんだ)

 記憶に刻まれた古傷が疼く。遠い昔、もっとも信頼し、愛情を預けていた存在に棄てられた記憶が……


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