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第五話:最終決戦(上)

「講和ができるんじゃないのかと思ったのだ」

「講和、ですか?」

 魔王は自分の部屋に戻っていた。勇者との決戦に備えて衣装を揃えていた。

 ゼラースは洋服のタンスの山から背を向けるようにして、魔王の装備が完了するのを待っていた。

「そうだ。我は勇者に講和ができないか確かめに行ったのだ。正直、我はこのような戦いに正義も悪もない考えておる。必要とあらば争いたくないとさえ思っている。ゼラース、お主はこの考えを笑うか?」

「……いいえ。笑いません」

「それは助かる。話が進めやすい。今回このような事態に直面して、我は我なりに何が最善であるのかを考えていた。長年、我ら魔物達と人間共は領土を求めて争ってきた。父上がこの世に現れるそれ以前からだ。それは魔物たちには魔物たちなりに住みやすい世界があり、人間たちには人間たちなりに住みやすい世界があるからだ。川が清浄でなければ生きられぬ者がいるのと同様に、汚濁の中でしか生きられない物がいるというだけの問題なのだ。相容れぬものがこの世にいようとも仕方ない。それは自然の摂理なのだから受け入れるしかない」

「はい」

 しゅるしゅるという衣服がはだける音だけが魔王の間に響いていた。

「だが、ゼラースお主が教えてくれた。この魔物達の世界は既に充分に安定していると」

 確かにゼラースは言っていた。魔王の国は新たな内政を行う必要がないくらいに安定している。怪物達は皆平和に過ごしている。彼らなりのあり方ではあるが健やかに生活を送っている。

「故に。もしできることなら我はここらでこの戦いを手打ちにしてはどうかと思ったのだ」

「手打ち……」

「戦争を辞めるということだ。種族間の対立を完全になくそうなんぞ馬鹿馬鹿しい夢は語らん。だが、お互いがそれなりに理解し合い、妥協と諦めを含みながらも、豊かに楽しく生きていくことはできないかと考えたのだ。勿論、その上で気に入らないことがあれば争えばよい。同じ種族での対立なんぞは我らも人間達もよくやることであろう。だが、全面戦争というと話は別だ。どちらかが生きるか死ぬかまでの戦いなんて、そんなもの誰も幸せにはならんだろうが」

「……魔王様」

 ゼラースは魔王の言いたいことが何となくわかった。自分だって愚か者ではない。こういった類のことは幾度も考えたことがある。しかし、ゼラースは魔王の言葉を待った。この少女が彼女なりに考えた結論をゼラースは聞きたいと思ったのだ。

「だから、勇者のことを見極めてやろうと城を出ようとしたのだ。我は敵方の人間がどういったものなのかほとんど知らぬ。おぬしらに黙ったて飛び出したのは謝る。だが、この衝動は止めようのないものだったのだ。もしも我がこの考えを実行できなかったとしたら、我はどこにも行けないような気がしてしまったのだ」

 カチャリ、カチャリ、金属の重なる音が聞こえる。鎧の音だろうか。

「それで勇者はどのような人物でしたか?」

「…………」

「魔王様?」

 ガシャン! と大きな音が室内に響いた。室内が静寂になる。

 何かあったのか、ゼラースは急いで魔王の元へと向かう。

 しかし、そこにあったのは、

「にへら~」

 と下着姿のまま口をだらしなく広げている魔王の姿だった。

「……魔王様」

「へっへへっへ……」

「……魔王様、あの」

 ゼラースが手を伸ばしかけたところで、魔王と目があった。

「はぁはぁ、ふっふんふーん…………! 少なくとも理性的であり交渉相手としては悪くないかと思ったのだ」

「そ、そうですか」

 結論を待った自分は馬鹿だったんじゃないかとゼラースはちょっぴり後悔していた。

「実際、交渉してみる価値はあるかと思った。できることならば、一緒になり、両種族間の関係解消のために役立てるのではないかと思ったほどだ。こ、これは不純な動機じゃないぞ! 結構マジメな考えだぞっ!」

「そうですか……」

 先ほど種族間の対立の解消なんて馬鹿馬鹿しいと言ったばかりであった気がするが、ゼラースは突っ込まないでこくことにした。

「し、して……ゼラース。お主はどう思うこの考え?」

「へっ?」

「お主の考えを聞きたいと問うておる。王に二度同じ質問をさせるでないっ!」

 ――そうか思わずどうしてこんな話が始まったのかわからなくなったが、魔王様は私の意見を求めてこのようなお話をなされたのか。それにしても怒っているお姿すら可愛らしいな。

 とゼラースはぼんやりと考えてしまった。が、質問には真面目に答えることにした。

「――そうですね。半分賛成、半分反対、といったところです」

「しかしてその理由は?」

「一つは講和には賛成だという点です。魔王様のおっしゃるとおりこの国は新しい土地を必要としないくらいには繁栄しています。私個人としては魔物の世界を広げたいという欲望はありますが、この場合は魔王様の判断が正しいでしょう。過剰な侵略行為というものは大抵ろくな結果を招きません。ただ、もう一つは講和の交渉を勇者に持ちかけるのは反対だと言うことです」

「……嫉妬しておるのか?」

「していませんっ!」

 魔女みたいなことを言いになって、とゼラースは独りごちた。

「個人的な感情を抜きに勇者に講和の交渉をしても無意味だろうということです。私自身はまだお会いしていませんので正確なところまでは理解は及んでいないでしょうが、勇者という者は王国から派遣させてきた戦士なのであって交渉をする対象ではないということです。そういったものは王国の当主や議会にでも持ちかけるものです。その勇者様が王家の血筋を引くものだとかすれば話は別でしょうが、伺ったところによるとそのようなこともないでしょう」

 そうだ。これは別段勇者の性格や資質に関わる問題ではない。必要とさせる役割を持つか持たないかの話であるのだ。

「どうも勇者とは万能の存在であると考えられている節がありますが、実際に私たちは勇者一人にここまで追い詰められているわけですが、そうではありません。その能力の指向というものは、魔王討伐にのみ傾けられています。言うなれば勇者とは、王国が奇跡の果てに生み出した究極の暴力装置でしかないのです。本質的には地上の兵士を焼き払う爆弾と何らかわりはしません。私たちを破壊する力を持ってはいますが、その鎖は王国がきっちりと繋いでいるのです。発射されたミサイルと議論をしたところで現状は改善されません」

 言い終えると魔王は黙り込んでしまった。

 ゼラースは少し言い過ぎたと反省した。嫉妬したのかという言葉に反応してしまったのだろうか。偏った思考に基づいた意見だったのではないか、本当に今の状況を正確に判断した上での助言であっただろうか、ゼラースは後悔を含みながら自分の発した言葉を頭の中で繰り返した。

 しかし、魔王は真剣な顔をしていた。彼女なりに今の言葉を受けてどうするべきか真面目に考えているのだ。勇者と話しあうべきか、それとも否か。

 そして数十秒の沈黙の後、静かに口を開いた。

「ゼラース。お主の言いたいことは理解できた。我の考えだけでは至ることのない点が見えてきた。感謝する」

 魔王は素直に頭を下げた。ゼラースは何だか申し訳ない気持ちになった。自分は必要とすべき助言に個人的な意見を混ぜてしまったかもしれない。自分が矮小な存在になったように思えた。同時に、魔王の尊大さと強さを改めて感じた。

「しかし、ゼラース。お主にはすまないと思うが、我はそれでも可能性を捨てたくはない」

 だが、魔王は揺るがなかった。

 彼女は言葉を続ける。

「我々はまだ勇者のことをほとんど知らない。彼に王国を変える力があるのかどうかも知らない。我々の仲間になってくれるのかどうかもわからん。何も知らないのだ。……ならば問わなければ何も始まらないではないか」

「そうですね」

 そうだ。こればかりは魔王が正しいとゼラースは思った。問いかけてみなければ何も始まらないのだ。お互いが平行線のままあり続けていてはいけない。凝り固まった思考に基づいて生きていても世界は動かないのだ。

「そうだぞ、ゼラースよ。それに勇者には少なくとも意志がある。ミサイルと対話するよりは簡単であると思うぞ」

「そう、ですね。今回ばかりは魔王様の意見に全面賛成します」

「うむうむ良い良い。はっはっはっは」

 魔王が高らかに笑うが、その笑い声ですら偉大なものに感じてしまいそうであった。

「無論、作戦は予定通り決行する。勇者が交渉に応じれば話しあうが、そうでなければ容赦なく叩き潰す! 我はプラーベートと仕事はわけて考える魔王であるからな」

 そういって一層面白そうに笑う。ゼラースも思わずつられて口元から笑みがこぼれてしまった。

「……そうですね、魔王様。あいつらに目に物を見てやりましょう」

「珍しく乗り気だなゼラース。よし我も張り切ってしまうぞ」

 魔王はブンブンを右手を振って威勢をアピールする。

「かしこまりました。それでは魔王様、少し長く話しすぎてしまったので急ぐことにしましょう。そのままのお姿ですと風邪を引いてしまいますし、私は見えないところにいますので速やかに着替えを続きをなさってください」

「うむ、請け負った。気合を入れて行かなければいかんな。それでは我は着替えの続きを…………ん」

 魔王はそこで鏡を使って自分の姿を見回した。そこには白く美しい下着を上下につけて、それ以外には一糸纏わず佇んでいる可憐な少女の姿があった。

「ぎゃ……」

「ぎゃ?」

「ぎゃあああああああ! 出て行けええええええええ!」

「ええ! 今さら!?」

 ゼラースはそのままぬいぐるみやらティーセットやらをぶつけられながら、せわしなく退散することとなった。



 最終決戦の舞台は魔王城の屋上に変更された。

 魔王自身は、自室で構わないと言ったのだが、ゼラースが土下座にも似た勢いで「それだけはっ……」とお願いしてきたこともあって舞台は魔王城の頂上へと移された。

 頂上は円状の作りになっており、半径30メートル近くあるだろうか、戦う分には申し分のない広さを誇っている。ゴーレムが城に改造を施すことによって整えられたものであった。

 本来は立ち入ることが想定されていない場所であったが、今は新たに勇者が来ることができるように入り口が備え付けられていた。そして入り口から見て一番奥には、神殿を想起させるような階段や円柱が置かれ、階段を登り切った先は巨大な椅子に悠然と座り込む魔王の姿があった。

「ふっふっふっふ……どうだゼラースよ完璧か?」

「完璧です。神殿も、そして笑い声も」

「そうかそうか……ふっふっふっふ」

 魔王は全身を鎧で覆っていた。西洋の騎士が装備する甲冑のようなものをイメージしてくれると良いかもしれない。もっと言えば、『鋼の錬金術師』のアルフォンス・エルリックだとか『fate/zero』のバーサーカーを想定してくれても構わない。そうした鉄の防具を足から顔まで余すところなく装着していた。

「どうだ魔女よ。この甲冑の防御は完璧か?」

「ええ、完璧ですわ魔王様。対魔力障壁から炎・水・雷・光・闇あらゆる属性を全て半減、爆発にも強いですし、毒や呪いの効果も受け付けません。ついでに体力があがってお金が手に入りやすくなる上に、何故かお腹がすきにくくなります」

「うむ、完璧だな」

 そう言って魔王はガチャガチャと鎧を動かす。

 遠距離からの攻撃は極力避けたい。勇者たちの戦いの傾向を見る限り、接近戦が中心ではあるようだったが、、何があるかわからない。ただでさえ危険な綱渡りをしているのだ。作戦の成功率は上げておくに越したことはない。

 ゼラースと魔女は魔王の椅子の両隣に陣取っていた。

 勇者が既に最後の幹部候補を破ったという情報は回ってきている。この決戦の舞台へやってくるのも時間の問題であった。

「どうだゴーレムよ。作戦の首尾は完璧か」

 すると、椅子の中からゴーレムの声が聞こえてきた。

「はい、完璧です。ちなみに勇者は下方にある螺旋階段をグルグルと回りながらこちらへ向かってきてますよ。どうしま? 階段を落として生き埋めにすることもできますけど」

「いや、それには及ばん。ここまであらゆる罠を掻い潜ってきた勇者だ。そんなことをしても無駄だろう。我が直々に相手をするわ。魔王城の兵士たちも疲弊しておろう。無駄に命を散らすこともない。勇者には手を出さないように伝えておけ」

 今度は神殿の柱から声が聞こえてきた。

「了解。かしこまりました。魔王様」

 ゴーレムはそういって声を消した。現在、ゴーレムは魔王城の一部と同化していた。頂上の神殿や椅子や広げられた空間は総てゴーレムの身体と同義であった。彼女はメイドに変身した時のように、城内の一部を吸収しながら身体の体積を広げその形態を変化させていた。

「思えば我が座っているこの椅子もゴーレムの身体の一部なんだよな。妙な気がするわ」

「魔物椅子ですね。魔物椅子。ミミックみたいな道具を模した魔物もいるようですが」

「らしいな。我の気づかぬ内にもそうした魔物がいるのだろうか」

 魔王は普段自分が使っているベッドや洋服タンスのことを思い浮かべた。

 魔王はひと通り現状の確認を終えると大きく息を吐いた。

 準備は整った。後は待つだけだ。

 しばらくすると、ゴーレムの声が聞こえてきた。姿は消したままである。

「すぐ真下にいます。もう間もなく到着しますよ」

 ゴーレムの言葉が終えるのとほぼ同時に足音が聞こえてきた。魔王は思わず息を呑む。その後自然と口元から笑みが現れ、狩りを行う肉食獣のようにじっくりと入り口の扉を見つめていた。

 そして――。

 ゆっくりと扉が開かれる。

 勇者の登場であった。



 オッス、俺の名前は勇者。ついに魔王との最終決戦の時がやってきたんだ。

 城の中は複雑な仕掛けがいっぱいあって大変だったが、何とか乗り切ることができた。

 最後の強そうな敵を倒してからは雑魚敵も出てこなくなり、延々と長い階段が続いていたことから「ついに魔王とご対面かな?」と思っていたんだ。

 すると、階段を抜けた先には、明らかに怪しそうな巨大な扉がそびえ立っていた。

 こりゃあ、間違いないな。もしもこの世界がゲームだったら、セーブポイントがあるところだ。

 俺は仲間の二人がきちんとついてきているのを確認する。ついでに体力を回復させるアイテムを惜しみなく使って能力を全快の状態にしておく。道具をきちんと揃えておくのは冒険の基本だよなやっぱ。

 これで魔王城に入る前と、同じくらいのステータスになったはずだ。

 満を持して俺は、ゆっくりと扉を開いた。


 ――ギィィィ、ガチャ。


 扉の向うには、神殿らしきカッコイイ建造物があった。

 さらにその中から鋭い視線を感じた。

 俺は神殿の中で、椅子に悠々と座っている存在を発見する。

 魔王の登場であった。

「よくぞ、ここまできたな勇者よ。わざわざここまでくるとはご苦労であった」

 魔王は甲冑で全身を包んでいた。俺的はハガレンのアルを想起させられる見た目だ。

 ここからではその強さははかることはできないが、敵は魔王である。油断しない方がいい。

 よく見ると、魔王の両隣には魔王の他にも仲間がいた。

 一人は、黒帽子を頭に被り黒マントを纏った典型的な魔女だ。闇に紛れれば姿が隠れてしまうくらいに真っ黒だ。ただその瞳が黄金色に輝いていることから、只の魔女とは違うと俺は理解する。

 もう一人は、長身の悪魔であった。戯曲『ファウスト』に出てくるメフィストフェレスに近いイメージだろうか。貴族があつらえたような美しいスーツを身につけ人間的な容貌をしている。しかし、肌は浅黒く耳は鋭く尖って人間のものとは思えなかった。

 俺は神殿へと歩みを進める。すると魔王が話しかけてきた。

「勇者よ。我はそなたに話したいことがある」

「何だ!」

 俺はできるだけ強気で言葉を返す。怯んではいけない。悪魔は何時の時代であろうと、甘言を弄して人間を誘惑してきた。それはアダムとイブの時代から連綿と続いてきたものである。

「我はそなたのような素晴らしい若者が現れるのを待っていた」

「そうか。俺も会えて嬉しいよ。魔王」

 そういって俺はシニカルに笑う。

 魔王は武者震いをするかのように身体を震わせていた。隣の悪魔がこちらを睨んできたような気がするが今は気にしなくていいだろう。

「我は、そなたに提案したいことがあるのだ」

「提案だと?」

「そうだ。て、提案だ」

「何だ!」

 鎧で声が曇っているのか聞き取りにくいが、どうやら魔王はこちらに何か持ちかけたい話でもあるようだ。

 何だ。降参か。いや、先ほどからガチャガチャと甲冑を鳴らすほど興奮している魔王がここで戦いを辞めるとは思えない。

 俺は嫌な予感がした。魔王の隣にいる魔女が愉快そうに口元で笑いをこらえている様子がこうした予感を助長させた。俺は魔王の言葉に構えなくてはならない。

「魔物の世界は今十二分に発展しておる。それは王国の方も同様であろう。しかし、我らは現状に満足せず新たな段階へと進まねばならない」

「…………」

「そこでだ。どうだ、共に手を組まないか?」

「何だと?」

 こいつはまさか俺に――王国を裏切れと言っているのか。

 魔族の発展のために俺に力を貸せと言っているのか。

「我は先ほど言った通り。そなたのことを買っておる。す、素晴らしくそしてカ……イイ若者であると思っておる」

 後半はよく聞き取れなかったが、敵に褒められるときは大体碌でもないことが待ち受けている時だ。

「わ我は、そなたのことを気に……ておる。そなたのことはまだまだ判らんがそれは追々知っていけば良い。こうした提案は我らの国においても有益だと思うのだ。こ、これは決して、独善的な考えではなく……」

「何が言いたい!」

「そ、そうだな。結論から言おう」

 魔王はガタリと立ち上がる。俺は無意識に身構える。甲冑に包まれた姿からは、どのような姿をした化物なのか想像することもできない。

「さあ言え、魔王よ!」

 すると魔王は一拍間をおいてとんでもないことを口にした。


「ゆ、勇者よ! そ、人間達そなたに世界を半分やるから、い、一緒にならないかっ?」


「断る!」


 俺は魔王に挑むように走りだした。俺は王国の皆を裏切って世界を手に入れるような男じゃない。

 魔王は衝撃を受けているようで隙だらけだ。俺はこのまま突撃することを決める。

 後方から戦士と僧侶も一緒についてきてくれた。心強い仲間たちだ。俺たちは最後の戦いを決めるために神殿へ向かって速度を上げる。

 

 ガラッ!ガララッ!

 ガラッ!ガララッ!


 神殿に足を踏み入れた瞬間、床が大きく揺れ始めた。

(マズイッ!)

 俺は大きく跳躍して、崩れ始めた足場からなんとか抜け出す。同時に空中へと大きくそそり立つような壁が四方八方に出現する。

「しまった……。分断されたか」

 俺は後ろを振り向くと、仲間の二人がいなくなっていることに気がついた。おそらく先ほどの地崩れと壁で俺たちは離れ離れになってしまったのだろう。

 俺は一瞬迷ったが、このまま魔王の元へと向かうことを決める。

 みると、先ほどまでいた魔女と悪魔がいつの間にか姿を消している。

「戦士! 僧侶! 大丈夫か!」

 すると壁の向こうから「大丈夫です!」との声が帰ってきた。

 おそらく魔王の隣にいた魔物たちは、二人の仲間の元へと向かったのだろう。

 ちょうど3対3か。

 敵にしては味な真似をしてくれるぜ。

 俺はそのまま神殿の中へと突っ込み、魔王の目の前へと接近する。

 魔王は先ほど立ち上がった状態から動きを止めている。鎧の中がどのようになっているのか外からは識別することができない。

(罠か……?)

 俺は危険な香りを感じながらも、迷わず突っ込む。俺は守備力にも自信はある。大抵の攻撃ならば対処することができるだろう。

 俺はカウンターを取られないように気を引き締めながら、剣を大きく振りかぶり、魔王へと一撃を加える!


 ガキィン!


 鎧の鈍い音が流れる。対防御用の障壁でも貼ってあったのだろうか。しかし、俺のこの剣にはそうした効果を消滅させる力がある。次でおしまいだ。

「……初撃は、できだけ……受ける」

 魔王が小さく呟いた気がした。

 先ほどは気にならなかったが随分と高い声だ。雰囲気に圧倒されていたが、魔王の正体とは一体何者なんだろう。まさか子供……?

 同時に、強烈な一撃を加えた影響のためであろう。魔王の顔を覆っていた鎧兜にひびが入り、徐々に割れていく。

「ちょうど、良い。外す手間が省けた……」

 魔王の鎧が消える。

 破砕される――。

 鎧の中からは、いつか見た金髪の女の子がそこにはいた。

「き、君は……」

 俺は咄嗟に動きを止めてしまう。

 少女は鎧を被っていたせいか顔を蒸し焼きのように真っ赤にしていた。さらに美しい金色の髪は汗で顔にべったと張り付き、目元はさらに酷く赤く腫れさせて、

 ――え、涙?

「……隙っ、ありっ!」

 一瞬の油断が命取りであった。

 逃げようと思っても逃げられない。

 魔王の右腕がこちらに伸びていくのが見えた。

 瞬間、眩しい光があたり一面に広がっていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。次話は8月1日(水曜日)までには掲載する予定です。

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