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ラスアの事情




 

「ラスアが契約者……」


 呆然とした顔で言ったのはリエナシーナだった。

 他の四人も、同じような顔でラスアを見ている。

 無理もない反応だった。

 クレイヴは伝説級の代物だ。欲しいと思って見つけられるものでもない。

 その名を知らない者の方が多いだろう。

 実際アシィの事がなければ、彼らがクレイヴと関わることは一生なかったのではないか、とラスアは考えている。


「……論より証拠よね。ってことで見てみる?」


 お伺いを立てるようにラスアはディグラムの顔を見上げた。

 陽晨と月霄は枕元の立て掛けられたまま沈黙している。ラスアが望まない限り目覚めることはなく、見た目はありふれた小剣なのだ。

 人は自分の目で見なければ信じられないことも多い。ラスアの告白はまさにそれに該当していたし、見たい、というならば見せても構わない、と彼女は考えていた。

 ディグラムは、少し考えるそぶりを見せてから首を横に振った。


「どういったものか興味があります。ただ、ここでクレイヴを目覚めさせるといろいろ面倒がありそうですから、今はやめておきましょう」

「そうだな。クレイヴを一般庶民が持っている、などと貴族連中が知れば目の色を変えて奪いに来る可能性もある」


 リエナシーナが面白くなさそうに顔をしかめた。その様子から、彼女が貴族たちにあまり良い感情を持っていない、ということが察せられた。


「リエナは貴族が嫌いなの?」

「阿呆が多いからな。己の立場の保身に走るとろくなことをしない」


 吐き捨てるようにリエナシーナが言った。

 本気で嫌っているらしい。何かあったのかな、と思う。

 ラスアの困惑を感じ取ったのだろう。リエナシーナが軽く肩をすくめて言った。


「昔とある魔法実験が行われたことがあったんだ。結果は失敗に終わったんだが、その責任を問われそうになった貴族出身の魔導師が、ディーグと私に擦り付けたんだ。その件で、城の魔導師団を追われてな」

「まじかよ」


 命知らずだな、とロイグランが呟いた。

 シスカも驚いたように話を聞いている。二人もラスア同様初耳だったらしい。

 ラスアに至っては、二人が王宮の魔導師だったということも知らなかった。魔導師団はこの国のエリート魔導師の集まりだ。

 二人の実力から言って不思議ではないが、寝耳に水、とはこのことだ。

 王太子と知り合い、というのもその経歴が関係しているのかもしれない。

 でなければ、一介の魔導師が王族と知り合いになどなれるはずもない。


「別に未練はなかったので、構いませんけどねえ」

「そうだな。腐った連中の駒にならずに済んで万々歳ではある」

「ディーグとリエナらしいねえ」


 人に使われることが嫌いな二人らしい意見に、ラスアは乾いた笑いをこぼした。

 ロイグランたちもうんうん、と頷いている。


「私たちの話などどうでもいいんです。それでラスア。クレイヴのことは分かりました。後は、魔法の事です」


 そっちもきりきり白状してもらいますよ、と笑顔を浮かべるディグラムに、ラスアは一々脅さないで、と泣きそうな顔で訴えた。




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