クレイヴの手助け
眠った男の傍にしゃがんだラスアは、よいしょ、と男の体を仰向けに転がした。彼の体に刺さったままになっている月霄に手をかける。
「月霄。悪いんだけど、抜くときにこの男の傷を塞いでもらえる?」
ラスアの言葉に月霄が不機嫌そうな感情を返した。それでも、お願い、と再度伝えると渋々了承する意を伝えてくる。
「ありがとう。じゃあ、抜くわね」
ゆっくりと月霄をダクリスの腹から抜いていく。本来なら、血が噴き出してくる場面だったが、月霄の癒しの力がうまく傷を治しているためひどい出血はなかった。
刀身が全て抜けた時には、ダクリスの脇腹の傷は完全に塞がっていた。
血だらけになった月霄を軽く振ると、小剣から簡単に血が落ちた。
「ありがとう、陽晨、月霄。助かったわ」
その言葉に答えるような意識がラスアの中に流れてくる。それに微笑むとまた二本の小剣に口付けをした。
「おやすみ、陽晨。おやすみ、月霄。いい夢見てね」
ラスアが優しく囁くと二本の小剣は再び静かな眠りにつき、何の変哲もない小剣と化した。
「それにしても、アシィが気絶してくれてて良かったわ。見られてたら面倒なことになってたもの」
ラスアがクレイヴの使い手であること。実は魔法を使えることを知っているものは亡き祖父バルトス以外にはラスア本人しかいない。強大すぎる力を他人に知られることを恐れたバルトスが全霊で隠し通していたのだ。
彼亡き後は祖父の遺言とラスア自身の意思でディグラムにすらそのことを伝えていなかった。
「さて。こいつらをこのまま転がしとくのは危ないよねえ。ああああああ。これでぜえええええええったい、ディーグたちにばれるよう。うう。怒らないといいなあ」
隠し事をするというのは、後ろめたい。特に親しい人たちに対するそれは罪悪感を倍増させる。
怒られるだけならまだしも、嫌われないといいなあ、と思いながらラスアは風の魔法を使って刺客たちを人目につきにくい場所に移動させた。さらに、風の鎖で体の自由を奪い、姿隠しの魔法もかける。これで、一日はもつはずだ。あとで、王宮の騎士たちにでも身柄を引き取りに来てもらえばいいだろう。
一応魔法が使えないことになっている自分が、思いっきり魔法で刺客たちを拘束している。
魔法使用制限法に思い切り引っかかっている。
王族を守り切ったということで、お目こぼしがもらえないかなあ、と姑息なことを考えてしまった。
アシィの下に戻ると、彼女はまだ意識を取り戻していなかった。初めての大魔法の使用に体がまいっているに違いない。
「頑張ったもんねえ。おんぶしていけばいっか」
横に転がっていた杖を支えにして尻の下に敷きくうくうと穏やかに眠るアシィを背負った。
始祖の墓を見てラスアは眉を潜めた。
問題は、はここからだ
秘密の通路の入り口および中の道順を当然のことながら、ラスアは知らない。そのことを知っているアシィは、完全に熟睡している。
ここまできたら安全面も考えて予定通り通路を使いたかった。しかし、たとえ入り口を見つけても複雑な迷路の中で、間違いなく迷子になる。
ここは諦めて直接城に行くしかないか。
途中で警邏隊に通報してダクリスたちは捉えてもらえばいい。城に入れなかったら、今日は宿に泊まって明日また出直そう。
ラスアがそう考え踵を返そうとしたとき、突如、頭の中に覚えのないイメージが浮かび上がった。ご丁寧に、隠し扉の開け方までレクチャーしてくれている。
「これって、始祖の像の背中よね。ってことはあの扉は隠し通路の入り口ってこと?」
不審に思いながらも始祖の墓の裏に回り、指示されたとおり、敷石を動かしてみれば鉄の扉が現れた。
「……行けって事かしら?」
ラスアが呟くとそれに呼応するように中の様子と思われる通路が頭の中に流れ込んでくる。
「どういうこと?」
当然のことながらラスアは秘密の通路に入ったことなどない。
しかし今、彼女の頭にはまるで知っているかのように通路内部の地図が描かれていた。
「まさか…」
ラスアはあることに気づくと背負っているアシィを支えるようにして持っている杖-鳶耀をぎゅっと握る。するとそれに答えるようにラスアに鳶耀の意識のようなものが返ってきた。
どうやら鳶耀がアシィを救うためにラスアの頭に通路内の地図を送りつけたらしい。
「…さすがクレイヴ。無茶苦茶ね」
話すことができない代わりに自らの意思を相手の頭に送りつけるクレイヴの出鱈目さに文句をつけながらも、送られた情報はありがたく使わせてもらうことにしてラスアは秘密の通路への扉に手をかけたのだった。




