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別れ

※流血表現があります




 さほど進まないうちに、街道をまっすぐに突き進んでくる騎馬の一団の姿がはっきりしてきた。スピードを緩める気配のない騎馬隊に、三人(正確には四人)は轢かれないように街道から外れて、草原に下りた。

 ここの所雨が降ることがなかったので、土が乾いて地面は固くなっていた。

 あの様子ならラスアたちのことなど目もくれず通り過ぎるかもしれない。ロイグランの勘が外れたかな、と思った一団は、急にその速度を落とした。馬の足に負担がかかりそうな止まり方をした男たちが、立ち止まっていたラスアたちを馬上から見下ろした。


「旅の者か。どこへ向かっている?」


 先頭の男が刃物を思わせる鋭さで、ロイグランに問いかけた。眼光は鋭く鷹をイメージさせる顔つきをしている。体躯は熊のようにがっしりとしており、背中には巨大なバスターソードを背負っていた。

 ロイグランが、ラスアたちを守るようにして一歩前に出た。同時に、リエナシーナが無言で少女たちを後ろへと下がらせる。不穏な空気を感じ取り、ラスアは大人しく魔導師の指示に従った。


「どこへって俺たちがどこへ向かおうと勝手だろ?」


 ロイグランは男の威圧をものともせず、飄々とした態度で肩をすくめた。

 彼の態度に、隊長と思われる鷹目の男が鼻を鳴らした。


「ふん。ならば、こちらの質問には答えてもらおうか。……アスティリア王女殿下はどこだ?」


 獲物を狙うハンターの目で男がラスアたちを見た。殺気すら感じるその視線に、ラスアは体を震わせた。

 とっさにアシィの体を引き寄せようとした自分の行動を、懸命に諌めた。彼の目にアシィの姿は映っていない。ラスアが下手にアシィを庇う動きを見せたら、彼らに少女の居場所を教えることになる。

 残念ながらロイグランの嫌な予感は、当たってしまったらしい。男たちからはおよそ友好的な雰囲気は感じられない。十中八九敵方の人間だった。

 一団の数は三十騎強といったところか。

 その数にラスアは状況の悪さを感じずに入られない。どう見ても訓練された男たちは、寄せ集めの盗賊と違って厄介この上ない。

 一人一人の実力はロイグランとリエナシーナに及ばないだろうということは、分かる。

 問題は、数の不利だ。

 普段の二人なら難なくあしらえる人数だが、今はラスアとアシィという足手まといが二人もいる。二人を庇いながらの戦いではロイグランたちでも、つらいものがあるはずだ。

じりじりとラスアは後ろに下がった。男から離れた方がいい、と頭の中で警鐘が鳴っている。


「アスティリア王女殿下?そんな偉い姫さんを俺たちが知ってるわけねぇだろ?王女っつーんだから城にいるんじゃねぇの?」


 全く動揺することなくロイグランがあくまで無関係を装うと、男の口が歪に歪んだ。


「そうか、あくまで白を切ろうとするか」

「白を切るも何も、知らねーって…ちぃ」


 舌打ちをするのと同時に、ロイグランが右手に跳躍した。


「ならば、言いたくなるようにしてやろう」


 にいっと笑った鷹の男の手には、バスターソードが握られ、ロイグランがいた場所に振り下ろされていた。


「走れ!!」


 ロイグランに怒鳴られラスアはアシィの手をとって走り出す。その後をすぐにリエナシーナが追いかけた。


「あの娘の後を追え!王女が一緒だ!!」


 ラスアが何もない宙を握ったのを目に捉えた鷹の男が部下たちに命じた。

 目ざとい男だ。前世は目が表すとおり鷹なんじゃないの、とラスアは心の中で悪態をついた。

 男の部下たちが剣を抜き、ラスアたちに向けて馬を走らせる。馬の足に人間が適うはずがなかった。

 追いつかれるのは時間の問題だった。


「ラスア!!」


 ラスアを追う男たちを倒そうと走り出したロイグランの前に、鷹の男と五人ほどの男が立ちはだかった。


「貴様にはここでおとなしくしていてもらおう」


 男がバスターソードをロイグランに向かって振り下ろす。


「邪魔すんじゃねぇよ!!」


 男の攻撃をロイグランは目にも止まらぬ速さで抜いた長剣で受け止めた。そのまま男の剣を受け流し、相手がバランスを崩したところでカウンターを繰り出した。

 ロイグランが足止めされたことに気づいたリエナシーナが、ラスアの横に並んだ。


「ロイは動けないな。ラスア、先に行け」

「リエナ?!」

「私はあいつらの相手をする。アシィを連れて先に逃げろ」

 

 驚いて名を呼んだラスアにリエナシーナが不敵に笑った。


「心配するな。すぐに追いかける」

「でも……」

「早くいけ。君の役目はアシィを守ることだ」

「うん」


 一瞬苦しそうに顔を歪ませてラスアは、頷いた。ラスアたちがいなければ、リエナシーナたちは存分に力を発揮できる。そうすれば、敵をあっという間に片づけて追いかけてくるはずだ。

 今自分にできることは、共に戦うことではなく、アシィを安全な場所に逃がす事。


「先に、行ってるわ」

「ああ。またあとで」

「うん」


 短いやり取りを終えると、リエナシーナが足を止めた。

追っ手に向かって杖を向ける。


『空を駆けし風よ、刃と化して彼の者らを切り裂かん。ウィンドブレード!』


「がぁ!!」

「ぎゃっ?!!」


 リエナシーナの生み出した無数の刃が追いかけてきた男たちに襲い掛かった。

 体を斬られ、馬が倒された男たちが地面に転がり落ちる。

 しかし全てを倒すことはできず、残った騎馬が迫ってきた。

 すぐにリエナシーナは次の呪文の詠唱に入ったが、男たちが二手に分かれ片方がリエナシーナへ、もう片方がルートを変えてラスアたちを追う。

 忌々しく思いながら唱えていた呪文を目の前に迫ってきた男たちへと解き放つ。それにより彼女を狙った男たちは全て地面に転がり落ちた。

 追っ手がすぐ背後まで迫っていることをラスアは肌で感じていた。馬のひづめの音がどんどん近くなる。

 周囲には身を隠せるような場所もない。男たちに二人が追いつかれるのは時間の問題だった。

 このままでは逃げ切れないとラスアが覚悟を決めて剣を抜こうとしたそのとき、馬の嘶きが聞こえた。

 振り返れば、乗り手を失った馬が追手たちの間を突っ切って二人のほうへ走ってきたのが見えた。


「賭けてみるしかないわね」


 ラスアはアシィの手を離し向かってくる馬の進路を図った。自分の横を通り過ぎる瞬間、垂れ下がっていた手綱を掴み見事な体術で馬に跨る。


「落ち着かなくていいから、進路を変えて頂戴!!」


 興奮している馬の踵を無理矢理返させ、追手に向かって馬を突っ込ませた。

 全力で馬を走らせて向かってくるラスアに、男たちが慌てて自分の騎馬を操って回避行動をとる。そのせいで姿を消したアシィを完全に見失なった男たちが、周囲に視線を彷徨わせた。

 彼等より先にアシィを見つけなければならない。そのためには暴走して走り続ける馬をどうにかしなければならなった。


「落ち着いて!!言うこと聞きなさい!!!!」


 一向に落ち着かない馬にラスアは怒鳴りつけた。彼女の気迫に馬が驚き、足を止めた。


「よし、いい子ね。だからもうちょっと付き合ってもらうわよ」


 ラスアは馬を引き返すと先ほどアシィの手を離した場所を目指した。そこは誰かが座っているように草がつぶれていた、懸命にもアシィはその場にとどまっていたらしい。

 大した度胸だった。それが今はとても頼もしい。

 左手でしっかりと手綱を握り、右手を離した。そのまま体を限界まで地面に近づけた。


「アシィ!!」


 ぎりぎりの距離で名前を呼んだ瞬間、アシィの姿が現れた。

 ラスアの意図に気付いたリエナシーナが咄嗟に魔法の効果を切ったようだった。

 ラスアに向かって小さく白い手が伸ばされる。その手をしっかりと掴むと力任せに少女を引っ張り上げた。

 それを追いかけようとした男たちがリエナシーナの魔法によって、なぎ倒された。鷹の男もロイグランによって馬を斬られ追跡を阻まれた。


「王都に行け!!」


 数人の男たちと斬り合いながらロイグランが叫んだ。

 その声にラスアはロイグランたちの方を振り返った。

 戦っている彼らを置いていくのはつらい。けれど、自分の役割は別にある、と必死に言い聞かせた。


「アシィ、しっかり捕まっていて」

「はい」


 この少女を守らなければならない。そのために、皆動いているのだから。

 王都に向けて馬の首を返し、ラスアはその場から走り去った。





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