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続・魔法談義??



「さて、思いっきり笑ったところで、続きね」


 体を痙攣させるほど腹をよじらせて笑っていたロイグランを、先に立ち直っていたラスアは放って話を元に戻した。


「はい。残るはラスアの属性、ですね」


 どこか期待を込めたようなアシィに、あらあら、とラスアは頬を掻いた。


「期待させて悪いけど、私は二人ほどすごくないわ。属性は一応複数だけどねえ」

「そうだったのか?」


 ラスアの告白に反応したのはアシィではなく、リエナシーナだった。

 その顔がいつになく真剣に見えるのは、気のせいだろうか。魔導師の視線に気圧されるように、ラスアはぎこちなく頷いた。


「う、うん。言ってなかったっけ?」

「聞いていない。ディーグは知っているのか?」

「……そういえば言ってなかったかも?」


 わざわざいうようなことではない、と思い話題に乗せたことがなかった。

 魔導師でない限り、属性にこだわる人間は少ない。アシィだって今回の襲撃がなければ気にすることはなかっただろう。シスカたちの属性を知っていたのは、書店の二階にある魔道書を売っている姿を見たから聞いたからだ。戦士であるはずなのに、魔道書をうってもいいのか、と聞いたときに、シスカから教えてもらったらしい。

 その時、ディグラムとラスア、リエナシーナの真の属性は聞けなかった。ディグラムはともかくラスアのものは本人なら教えてくれるかな、と思った結果らしい。


「そういうことは、ディーグくらいには言っておけ。複数持ち、と自覚があるならなおさらだ。どこでどう転ぶか分からないのが、複数持ちなんだ」

「なんで?」

「複数持ちは数が少ない分、魔導師にしたい、と言う輩に狙われやすい。今まで知られていなかったのは幸運だった」


 修業をすれば一人で合成魔法が使えるようになる複数持ちは、魔導師になれば一人で二人、三人分の働きを期待できる。だから、多くの複数持ちは身分にかかわらず、魔導師にされることが多い、とリエナシーナは言った。


「ディーグとリエナも?」

「ああ。だから、気をつけろ。魔導師になるつもりがないなら、単属性、と言うようにしろ」

「うん。分かった」


 初めて聞かされる魔導師の裏事情に、ラスアは神妙にうなずいた。将来の道として魔導師になることは欠片も考えていないから、この忠告は厳粛に受け止めておかなければならない。


「アシィもディーグや私のことはうっかり口にしてもいいが、ラスアのことは絶対に言うことがないように気を付けて。これが嫌な目に遭うのは嫌だろう?:

「絶対に嫌です。誰にも言いません」

「ありがと、アシィ」


 力強く誓うアシィにラスアはふわり、と笑った。


「それで、属性はなんなんだ?」

「あ、そこは聞くのね」

「気にはなる」

「わたくしも知りたいです」


 金と翠の期待の籠った視線にさらされ、ラスアは居心地の悪い思いをした。

 たかが属性の話で、どうしてこんな気分に晒されなければならないんだろう。疑問に答えたのは、いつの間にか復活していたロイグランだった。


「ま、隠し事の告白ってのはそういうもんだ」


 妙に納得した。隠していたわけではないけれど、黙ってはいた。

 意味は遠いが気分は近いんだろう。

 気を取り直して、ラスアは期待にお応えして、と口を開いた。


「私の属性の一つはアシィと同じ水。もう一つは風。相性はいいから、魔導師になれば結構いい線いく組み合わせかしら。ま、面倒だったから覚えようとは思わなかったけど」

「そうなんですか?」

「そうなのよ。ま、あれば便利だけどなくても困んないから」


 魔法の勉強はいろいろ複雑なのだ。特に必要としていなかったから、覚えなかったの、とラスアは笑った。


「……ん?」

「ロイ?」


 不意にロイグランが前触れもなく立ち上がり、王都へ向かう道に厳しい目を向けた。その様子にどうした?とリエナシーナも席をたった。


「騎馬がまとめてこっちに来る。一応警戒しとけ」


 ロイグランは腰に佩いた長剣に手を添えながら、三人に注意を促した。

 彼の視線の先を追ったラスアの目に、ぼんやりと立ち上っている土煙が見えた。それがロイグランが言う騎馬が起こしているものかどうかは、判別できなかった。

 ロイは絶対常人の倍は視力がいい、とラスアは常々思っている。


「盗賊?」

「いや、それにしては統制が取れてる。……嫌な感じがするぜ」

「アシィ、隠したほうがいいんじゃない?」


 危険に対するロイグランの勘は馬鹿に出来ない、と何かの折にアサファが言っていたのを思い出す。ラスアはちらりとアシィを見た。

 思い過ごしならそれに越したことはないが、もしロイグランの勘が当たっていれば、敵は機動力に長けた集団ということになる。

 足で逃げるしかないラスアたちは不利だ。

 アシィの姿を見つけたら、真っ先に襲ってくるだろう。姿が見えなければ、時間稼ぎができるはずだ。

 リエナシーナがそうだな、と頷いて、アシィの前に立った。


「そのほうが安心だね。アシィ、ちょっと魔法をかけさせてもらうよ」

「はい」

『風よ、我が意に従い偽りを纏わせん。イリュージョン』


 アシィに杖をかざしてリエナシーナが呪文を唱えた。小さな風がアシィを包み込んだと思ったら、その場から少女の姿が消えていた。

 本当に消えたわけではなく風の魔法によってアシィの姿を隠したのだ。目には映らないが彼女はしっかりとその場に存在している。


「やっぱ盗賊じゃねぇな。どこかの騎士団か?」

「まさか、お迎えってことはないわよね」

「だったら、ディーグから連絡が入るだろ。そうだろ、リエナ?」


 ディグラムとリエナシーナは魔法を使って離れた土地でも直接話をすることができる。もし何か計画に変更があったときには二人で連絡を取り合うことになっていた。


「ああ。ディーグからは何の連絡も来ていない。少なくとも味方ではないことは確かだ」

「だとさ。さて、行くとするか。アシィはラスアの服をちゃんと握ってついて来るんだぞ」

 

 ぽんっとラスアの頭をたたいたロイグランがリエナシーナと並んで休憩所を出た。


「もう、待ってよ!アシィ、行くよ」

「はい」


 小さな声で返事が返り、同時に服の左裾がぎゅ、と握られた。アシィが確かに傍にいる気配を感じて、ラスアは二人の後を追った。





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