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出会い


 ラスアの住む学術都市アジェンダは学術の都として発展をしてきたコッズウィーン国でも指折りの大都市だ。大小さまざまな学院、学校が集まるベリエ地区、様々な研究機関が集まるチケ地区、書物の宝庫の別名を持つカシュガーン地区の三区からなるこの街には高い知識の向上を求めて数多くの人々が集まる。

その中でも書物の宝庫の別名を持つカシュガーン地区には、古くから多くの書店が軒を連ね、古今東西国内外種類を問わず様々な本が集まってくる。書店も一般的な書物を扱っている店から一つの物だけを扱う専門店まであり、カシュガーンに来れば必ず欲しい本が見つかるといわれている。カシュガーンはコッズウィーン国だけでなく周辺の国々の中で最も本が集まる場所として国外から訪れる者も多い。

ベリエ地区のケナ駅から定期馬車に乗ったラスアは三駅先にあるカシュガーン地区のダリム駅で下車をした。


「まっずーい。やっぱり遅くなったわ」


 馬車を飛び下りたラスアは、溢れかえる人の間を縫うように駆け足で進んだ。器用なもので、走っていても誰ともぶつからない。

通い慣れた十字路をひょい、と曲がる。足を踏み入れた先は、商店が並ぶ通りから一転して人通りがぐっと少なくなる。道を一本隔てただけで背の高い住宅が密集している少し薄暗い道になるのだ。歩くことも随分と楽になる。

ベリエ地区から少し距離はあるものの、その分家賃が安い貸部屋が立ち並んでいる。貧乏学生や学者などが利用している。

ラスアの自宅もこの通りに面していて、バイトの前に荷物を置きに寄っていた。ラスアの家は書店を営んでいて、彼女は休みの日や学校が終わった後はそちらでバイトをさせてもらっている。


「やばいやばいやばーい。今日の店番だれだっけ?ロイなら感謝。アサファとシスカはセーフで。リエナはアウト。ディーグだったら地獄行き!!」


 焦っているせいで店番のシフトが思い出せない。ああ、どうかセーフでありますように、と天に祈りながら爆走する。

遅刻はしない、がお手伝いの店番からバイトに昇格したときにディグラムと約束したことだ。絶対に破るわけにはいかない。

超特急で走っていたラスアが、細い路地との交差点に差し掛かった時目の前に小さな影が飛び出した。

まずい、と思った瞬間、どんっと影と衝突した。反射的に腹へ力を入れて倒れることを何とか避ける。それと同時にどさっと何かが落ちたような音がすぐ下で聞こえ、見ればそこには十歳ほどの少女が尻餅をついていた。


「大丈夫?!」


 慌ててラスアが手を差し出すと、少女はびくっと体を震わせ座り込んだまま後ずさりをした。見れば少女は体中あちこち汚れ、転んで作ったのだろう擦り傷も見られる。見上げてきた目には涙を一杯に溜まり、顔は青ざめ、体は小刻みに震え続けていた。

 そのあまりの姿にもう一度、大丈夫?と手を差し伸べた時、近くから「いたか?!」「見失った!!」「どこ行きやがった!!」などと物騒な声が聞こえた。同じように声を聞いた少女の体が更に強く震え始めた。


「…あの声の人たちはお友達?」


 しゃがみ込み目線を合わせて聞けば、首を取れんばかりの勢いで左右に振る。

 綺麗な金色の瞳から我慢していた涙が一筋ポロリとこぼれ落ちる。纏まっていたであろう長い金髪もぐしゃぐしゃに乱れ、幼い身で必死に逃げてきたということが伝わってきた。

 聞こえてきた声は、どう聞いても大人の男の声。友達にいじめられてというわけではなさそうだ。何より、随分と可愛らしい顔をしているし、着ているものも汚れてはいるが、かなり良いものだ。


 ――良家の子供が拐かしにでもあったか。


 少なくとも追っているらしい男たちが家人や知り合いのものとは思えず、逆に危険な存在である可能性のほうが断然高い。

 ラスアは危険な目にあっているだろう子供を置き去りにできるほど人でなしではない。

 ここであったが運のつき。

 明らかに間違った言葉の使い方をしながら、ふぅっと一つ溜息をつくと震えている少女と再び目を合わせる。


「ここであったのも何かの縁で、見捨てたら絶対目覚めが悪そうなのよね。というわけで、匿ってあげるから一緒においで?」


 にっこりと微笑んで手を差し出せば、少女は元々大きな目を更に大きくしてラスアを凝視した。


「まぁ、怪しさ大爆発なことは認めるけどね。ここでぐずぐずしているとあの声の男たちがきてしまうわよ?」


その言葉に少女は追ってくる連中よりはましと考えたのかようやくおずおずと手を差し出してくる。その手をしっかりと握り、じゃ、いこうかとラスアは軽く引っ張るようにして少女を立ち上がらせ急いでその場から走り去った。



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