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行動開始




 アシィが捕まったという事態は免れていたが、その次位にまずい状況になっている。敵がどのくらいの人数を揃えているかは分からないが良くない方向に状況が動いていることは間違いない。

アサファとシスカがここに帰ってこられず、伝言をよこすような事態だ。流れはよくない。

 ディグラムが不機嫌になるのも分かる。


「それでどうなってるの?」


 ラスアのソプラノが嫌な空気の流れ始めた事務所内に落ちる。


「詳しい説明は時間がないので省きます。まず、この少年の紹介からします。シェステイン=アルフ=ヴォヌス=カルバティス。コッズウィーン国王太子タグチェイク殿下の第二王子、つまりアシィの二番目のお兄さんということです」

「は?王子?」


 突然聞かされた級友の思わぬ正体にラスアは絶句した。シェラクがばつの悪そうな顔をしている。

 否定しない、ということは、事実なのだろう。一体どうして、王孫がこんなところにいるのだろう。しかも身分を隠している。

 聞きたいことはたくさんあったが、今はその質問をぐ、と飲み込んだ。

 ディグラムが話を続ける。


「今日はたまたまカシュガーンまで本を買いに足を伸ばしたそうです。そこで本来ならここにいるはずのないブクツァイの別荘にいると聞いていたアシィを見つけました。それも見知らぬ大人に連れられて、です。最近妹の周囲が不穏だと聞いていた彼は慌てて三人の後を追い、説明を求めました。シスカたちは仕方なく喫茶店に彼を連れて行き話をしました。それで一応納得した彼と別れるため喫茶店を出たところで襲撃を受けたそうです。二人の咄嗟の機転でその場は何とかしのいだようですが、当然敵もそうやすやすとあきらめてはくれず、応戦しつつ逃げ回ってはいたもののそれも限界になったようですね。二人も守りながらの逃亡は厳しいと判断したシスカたちは一度敵を撒いたところで王子をここへ走らせることに決めたそうです」

「何つー無茶を。王子が捕まったらどうするんだ」


 ロイグランのぼやきにディグラムが背筋の凍るような笑顔を見せる。


「そのときはそのときでしょう。むしろ王子と王女が二人まとめて捕まったり殺されたりするよりはましですよ。最悪でもアシィは残りますからね」


 つまりアシィが捕まるあるいは殺されるのは困るがシェラクがそうなる分には仕方がない、といっているのだ。なんだか人として間違っている気がひしひしとしたがこれ以上藪をつついて蛇を出したくなかった三人は懸命にも口をつぐんだ。

 そして、あまりの扱いに本来なら怒って当然のシェラクは、ディグラムの笑顔の恐ろしさに凍りつき口どころか指一つ動かせずにいた。


「さて、これまでの状況は理解しましたね。ここからが本題です」


 すっとディグラムが纏う気配が、不機嫌な威嚇するようなものから、硬質で真剣なものへと変わる。それを受けてラスアたちの表情が更に引き締まった。


「まずはシスカたちの無事を確かめ、連絡を取り、三人にはここへ戻るよう伝えます。今の時点ではまだここは知られていないと考えていいでしょう。敵の情報網がどれほどのものか分かりませんが、そう簡単には調べられるとも思えません。一日は身を隠せるはずです。ロイとリエナは三人の居場所を突き止め次第、私と援護に行きます。その際絶対に相手に名や姿を知られないように。ラスアはここで王子と待機。絶対に王子を外へ出さないように」

「家のほうでいいの?」

「ええ。ただ、出歩くことは控えてくださいね」

「ん。庭もやめたほうがいい?」

「できるだけ控えてください。ああ、王子は絶対にやめてくださいね。どこに目があるか分かりませんから。もし朝まで戻らないときは、二人とも学校は休みなさい。王子は家に戻ることもしばらく諦めてください。いいですね?」


 ディグラムの指示に半ば気おされるようにシェラクは一つ頷く。


「リエナ、風で三人の現在位置を掴んでください。見つけたら私に報告を。ロイは用意ができたら指示があるまで待機です」


 その言葉を合図に全員がやるべきことをなすために事務所を後にした。





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