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意志ある武器





 訝しみながらディグラムの問いに答えたのは、ロイグランだった。


「ああ、知ってるぜ。確か、遥かな昔に神が地上にもたらした武器とかって言われている希少な武器で、使い手にものすごい力を与えるとかって話だったよな」


 大雑把なロイグランの説明にアサファが相槌を打つ。


「<意思ある武器>と言われるだけあって、武器が使い手を選ぶと言うな。武器に選ばれないものがいくら使おうとしてもそれらは決して応えることはなく、使い手以外にはなまくらになると聞いたことがある」

「そうです。そしてそのクレイヴがこの国にはいくつか存在しています」

「そうなの?あたしはてっきりクレイヴなんて眉唾物だと思っていたわ」


 案外伝承って馬鹿にできないのねぇとシスカが感心している。

 実際<意思ある武器>に関しては知っている人間は少ない。まず一般市民でその存在を知っていることは稀だろう。そして、ロイグランたちのように武器を扱うものたちにとってもほとんど伝説上のものとなっている。それほど表に出てくることは滅多にない代物なのだ。 

 そういえば、とそれまで黙っていたラスアが口を開いた。


「カルバティス王家にはクレイヴが宝物として伝わっていたわね。最もう何十年も使い手がいないらしくて宝物庫で眠りっぱなしだっていうことだけれど」

「よく知ってるわね、そんなこと」


 たった今伝説上の物だといったばかりなのにその所在を知っていることにシスカが驚いた。

 ラスアは何でもないことのように笑った。


「昔おじいちゃんに聞いたことがあったの。それで、クレイヴがどうしたの?」

「あの人なら知っていておかしくありませんね。ラスアの言うとおり現王家にクレイヴが伝わっています。その<意思ある武器クレイヴ>鳶耀えんようが先月使い手を選びました」

「それって、まさか」

「そのまさかですよ、シスカ。実に八十年ぶりに使い手として選ばれたのがアシィです。なにせ八十年ぶりのことですからね。王宮は大騒ぎになったそうです。ただ中にはそれを面白く思わない存在、というものが同時に出てきました」

「それが今回の首謀者ってことか」


 厳しい顔をしてロイグランがうなった。


「それにしても、たかだか伝説級の武器に選ばれたってだけで、こんな小さな子を狙うなんてとんでもないやつね」


 シスカがラスアの制服の裾をずっと握り、黙って話を聞いているアシィを見た。まだ十歳くらいの子どもだ。王族に生まれたとはいえ、命を狙われて恐ろしくないわけがなかった。

 心なしか、若干顔色が悪くなっているようにも見える。それでも、顔を上げて話に参加している彼女の姿勢は、凛としていた。

 この年で思い重圧に耐えねばならない彼女にラスアは心の中で同情した。それを表に出すことがないように、表情は取り繕っていた。

 下手な同情は、アシィにはきっと不要だ、と少女の態度が語っていた。だから、言葉に出すような真似だけはしないようにしよう、と思った。


「それだけすげぇものってことなんだろ、ディーグ?」


 ロイグランが肩をすくめて言った。


「そこで私に振らないでください。私もクレイヴについてはそれほど詳しくはないんです」


 ディルラムが苦笑すると、三対の目がそろって疑わしそうな視線を送った。彼の言葉を鵜呑みにすることは、馬鹿のすることだ、とこれまでの付き合いから彼らは学んでいる。

 ロイグランが、再び口を開く前に彼の疑問に答えたのは意外な声だった。


「<意思ある武器クレイヴ>が使い手に与える力はそれほど強大ということなのよ。それまで平均的な力しかなかった子が国一番の魔術師になったという話、戦争では敵の一個中隊を一人で殲滅したという話。それを手にして国を手に入れたなんて伝説もあれば、その力で国を興したという伝説もあるわ。代わりに血なまぐさい話も大量ね。それを巡って個人の争いから国同士の争いにまで発展したこともある。クレイヴ使い同士の戦いで国が一つ滅んだとも言うわ。権力者や力を欲しがる者にとっては咽から手がでるほど欲しい代物ということに違いはないわ」


 もっとも、とラスアは唇を吊り上げて、彼女らしくない皮肉気な顔をした


「意思ある武器という意味をわかっていない人間が多すぎたっていうことも確かね」

「意味をわかっていない?」


 ロイグランが、意味が分からないと首をかしげた。シスカたちも興味深そうにラスアの話に耳を傾けていた。


「意思ある武器=クレイヴにはその名の通り武器に意志が宿っているわ。アシィちゃんも鳶耀に選ばれた時にその意思感じ取ったと思うけど」


 どう?とアシィを見れば、少女は小さく頷いた。


「はい。確かに鳶耀を目にした時、何か温かな思いがわたくしの中に流れ込んできたように感じました」

「成る程。クレイヴとはただ手に入れればいいというものではないということですね。クレイヴに<選ばれて>ようやくその力を得ることができる、と」


 ディグラムが解釈したことを口にすれば、そういうこととラスアが苦笑した。


「結局、多くのものを犠牲にしてようやく手に入れたクレイヴも選ばれることがなければただのガラクタなのよ」

「成る程な。にしてもよくそんなこと知ってたなぁ、お前」

「さっきも言ったけどおじいちゃんがなんかやたらとそういったことに詳しかったの。で、家の中そういった本が山ほどあって、暇つぶしに読んでたのよねぇ」

「どういうじいちゃんだよ、それ…」

「ディーグの友人をやれるようなおじいちゃんで、ディーグが口で勝てないくらいの人?」


 ロイグランが引きつったような顔を向けていたので、祖父の人なりを思い出しながらこてんと首を傾ければ、その場になんともいえない沈黙が漂った。

 実際そうだったのだからラスアにはかばいようがない。シスカに狸と言われたディグラムを、その辺の子供と変わらないように扱っていた彼女の祖父はなかなかの強者だったのだろう。彼に日ごろ押し切られる事が多い仲間たちとしては、ラスアの祖父という存在はもしかしたら化け物として思い描かれているかもしれない。


「クレイヴについてはこのくらいでいいでしょう。王女がなぜ狙われているのかということも理解してもらえたと思います。そこで今後のことですが、期間未定で王女をここで匿います」


 その場の空気を断ち切るようにディグラムが話の軌道を戻した。

 彼としてもラスアの祖父のことにはここで触れられたくないようだ。ある意味、ディグラムの黒歴史、と言える一部なのだから当然だろう。

 何か言いたげだったロイグランも、ディルラムににこり、とうすら笑いを向けられて、おとなしく引っ込んだ。




話の中の意志ある武器クレイヴは造語です。読みやすい方で読んでもらって、支障ありません。

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