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いつかの遊園地

90年代を舞台にした青春小説です。

 少し藍色がかった空気。

 アクセルをふかす。

 海岸沿い。

 今は明け方なのだろうか。車の数はまばらだ。海からの風が鼻をくすぐる。

 月が青い。

 隣を見る。

 助手席の彼女がサングラスをしたまま「ウン?」といった表情をこちらに向けまた前方に向き直る。潮風が彼女のソバージュをかきあげる。彼女の耳は派手で重そうなイヤリングとはアンバランスにちっちゃくて可愛らしい。俺は片手でハンドルをきりながらいつか映画でみたような場面だなとぼんやり考える。何て映画だったか。主演はそう、確か、何とかチャップマン。

 ところで俺たちはいったい何処へいくんだろう。

 俺は彼女に聞いてみる。

「いつかいったテーマパークでしよ」

 彼女はぶっきらぼうに、でも優しい声で答える。そうかそうか俺たちはいつか二人でいった思い出の場所にもう一度いこうとしているんだっけ。でもこんな海岸沿いの道だったかな。俺はちょっと照れくささを隠しながら道を彼女に尋ねた。

「何いってんの。そこの角を曲がったとこじゃない」

 えっ、俺はいぶかりながら彼女のいう角を曲がる。

 とっ、そこには確かに遊園地が現れた。

「ねっ」彼女はサングラスを下にずらしにっこり微笑む。

 まだ朝が早いのでやってないのだろうか、人影は見あたらない。しかしなかの電飾はついているし、観覧車や回転木馬といった遊具装置も動いている。俺たちは車を降りて、入り口まで歩いていく。彼女はとても楽しそうだ。空気の色は依然として濃く、そのコントラストがテーマパーク全体を浮かびあがらせてみせている。彼女は口笛を吹いている。俺は何か懐かしい気分になっている。まだやってないのかな? 俺は前を歩く彼女に呼びかける。

「そうみたいね。でもせっかく来たんだし始まるまでここで待ってましょう」

 彼女は俺の肘に手を絡ませる。ひんやり冷たい。女の子と腕を組むなんてずいぶん久しぶりだなと思いながら片手で煙草をくわえて火を付ける。彼女は俺の肩に頬をつける。今は冬なのだろうか、俺は皮のハーフコートを着ている。煙草が非常に美味しく感じられ気分がいい。

 とっ、中から警備員みたいな男があらわれ俺達に近づいてくる。額に苦闘の歴史を刻んだ親父はインチキ臭いにやつき方で俺達2人を値踏みするように凝視する。幸せな気分がなんだか壊されそうで俺は警戒する。

「お客さん達はどこからきたんですか」口調は柔らかい。

「東京からです」

 俺は答えながらひょっとしてここも東京なのかなと考える。

「そうですかそうですか。それは遠くから」

「ここは何時に開くんですか?」彼女が尋ねる。

「博覧会は先週の日曜で終わってしまったんですよ」

 親父は本当に残念だという表情を見せていう。

 俺は驚くが、しかしそんなことは最初から知っていたような気もする。

「いま撤去前の最後の試運転をしているんですよ」親父はいう。

「そう、あれはお祭りだったのね」彼女は少し悲しそうにそういう。

 親父が去っていった後も俺達は暫く門の前にいた。彼女は俺からもらった煙草をふかし

ながら中の様子を眺め何か考えているようだった。

 俺はふと彼女のことを好きだった自分を思い出す。

 遠いようで近い、近いようで遠いこと。

 いつのまにか焼けるような橙色の夕陽が地平線を包み込み、奥の方で象が引っ張っられ

ているシルエットがぼんやりと映っている。

「わたし秘密の抜け穴を知っているんだ」彼女は鼻を鳴らし自慢気にいう。

 首を振って隣の彼女を見る。彼女は幼い少女に姿を変えている。

 でも僕は驚かない。なぜなら僕も小学生になっているから。

「こっちよ」彼女は僕をしたがえて園のわきに回る。僕たちは背の高い草むらをかき分け小高い丘を昇り降りし目的の入り口を目ざして進む。

「ここよ」彼女が立ち止まり指さす。3mはある金あみの下の部分が少しめくれている。

「じゃ私から先にいくわね」彼女がまず器用にそのすき間をくぐり向こう側に行く。

「はい、あなたの番」彼女はいたずらっぽく笑っていう。

 僕は彼女と同じように四つんばいになってすき間をくぐろうとする。ところが体の半分が抜けたところで前に進まなくなってしまう。僕は必死にもがくがちっとも進まない。

 着ているセーターが引っかかっているのだ。僕はほとんど泣き出しそうになりながらもがき続ける。不安と恐怖がだんだんと胸の内に広がってくる。

 あのだいっ嫌いな顔をしたけい備員に捕まってしまうんじゃないか。

「ねっ、大丈夫」彼女が手を貸してくれる。僕のわきをつかみゆさぶる。でもセーターは取れない。彼女はゆさぶる力を強める。彼女は僕を助けてくれようとしている。それなのになぜ抜けないんだ僕はもどかしい。

「ねえ、大丈夫?」「大丈夫?」……

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