第5話 似たもの兄妹
今、私は帰りの車の中にいる。
運転手の吉住さんは、本当に面白い。
ツーといえばカー、その上、荒事を幼い兄に教えた腕もある。
「ねえ、すごいタイミングでお兄様いらっしゃったわね。」
私がミラー越しに吉住さんをみながら話しかける。
「はい、ようございました。早すぎず、遅すぎず、さすが薫様です。」
そう言って運転をしながら吉住さんから返事がくる。
「で、いつ連絡を?」
私が聞くと、
「はい、桜様に薫様からだという電話が入りました時に、確認をとらせていただきました。」
そう、と私がつぶやいた時、
「あ~、もうめんどくせー!俺に聞け!俺に!」
そう言って髪を一度手でかきあげる兄に私は冷たい目を向けニッコリ笑う。
「ふっ、お兄様、見知らぬ下品な女が、お兄様の子だと言って赤ちゃんを屋敷に連れてきたのは、去年の春でしたわよねえ。」
「あの祖母が卒倒したので、私的には、最高でしたけど、あの時はすぐにお兄様とは無関係とわかって場はおさまりました、けど・・・・。」
私は胸のたもとから、扇子をだして、ぐりぐりと兄のこめかみをえぐってやった。
兄は背が高いから。
そして伸びをして、まじかに顔を寄せた。
「よく聞け!このバカ兄貴!てめえの股間についてるものの制御もできねぇで、このワタシに迷惑かけんな!ナンだ!あの女、本当に趣味わりい!同じ女とは2度寝ないだぁ!自分のあっちのテクニックに自信がねぇんだろうがよぉ!だがな、そんなのかまやしねえ!面倒そうな女はきちっと潰しときやがれ!お前のとこでな!こっちにもってくんな!まして、久々に骨のあるやつかと思えば、雑魚だ!雑魚!思いっきりなぁ!せっかくでしゃばってきたんだ、少しは楽しませろってんだよ!」
低く恫喝した後、冷たく笑う。
「お兄様仕様の言葉でしたら、そのタリナイおつむでもご理解いただけますでしょう?わかっていただけたかしら?」
それに、兄はクックっと笑いながら、長身の体をかがめながら、自分から私に顔を寄せてきた、くっつくほどに。
「怒んな、怒んな!俺が悪かった。丹念に作り上げた化けの皮はがれるぞ。お前のカワイイ素は俺だけが知ってればいい。いつも言ってんだろ?俺以外に見せたら・・・わかってんだろ?約束する、これからは処理道具は使ったらきちんと壊す事にする。絶対だ。」
私の扇子をひょいと取り上げ、片手で私を更に抱き寄せ、もう片手は降参のポーズ。
ふん、八つ当たりくらいさせて欲しいものだわ。
この兄が情けなく囚われているなんて、何て面白いと思ったのに、これだもの。
私はため息を一つついて、手をしっしっと振って兄を押しやる。
「あのババア、どうだ?」
「相変わらずですわ。」
お互い窓の外をみながら、それでお互いわかる。
「久しぶりのお兄様のお帰り、喜んでくださるといいのですけど。」
私が言うと、兄は、
「まかせろ!血管の何本か確実に切らせてやる。うまくいけば、あの世にいけるくらいにな。」
と、うっそりと笑う。
「まあ。」
私は驚いたように口にたもとをあてて兄を見る。
兄もまた私を見る。
2人でひっそりと笑いあった。
「桜、あの言葉使いは少し下品すぎるほどに使わないとだめだ。迫力に欠ける。どうしても桜の品の良さが隠してもにじみでてしまうな。」
「今度、大きい出入りでもするか?ある程度のチーム同士のそれは、本当に下品だぞ。良い教材になる。」
「まあ、お兄様、喜んで見学させていただきますわ。」
私達は間違いなく仲の良い兄妹だ、と思う、似たもの同志の。