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たゆとう  作者: そら
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第24話  かんちがいは迷惑

 「俺が出るまでもなかったな」


 そう言って私を抱きこんだまま笑う今井先輩。


 「な、言っただろ」


 見ると取り巻き?いやチームだという配下の人間達に声をかけている。


 

 「お前ら、あの時潰されていたからな、いくら言っても信じやしねぇ。今度はちゃんと見てたろ?俺の大事な女のすげえとこ」


 私はそれを聞いてこいつら、いけないいけない、この方達がこの試合を見ていた事を知った。


 あなたがたは暇ですの?


 私は私を抱き締めたまま更にその体を密着させてくる今井先輩を見上げ、離してくれるよう頼んだ。


 にっこり優しく目を細めながら、その無駄に鍛えた体で更に抱き込んでくる今井先輩。


 日本語が通じない。


 こういう輩には・・・。


 「苦しいの、離して下さらない?」


 言うと同時に私を抱きこむ腕に何とか自分の手を重ね、でれっとした瞬間に逆関節を決めひねりあげてやる、これで終わりなはず。


 ひねり・・・え?それを更に返してくる今井先輩。


 たまにあらわれるこういう男には、少し痛い目にあってもらっていた。


 二日くらい動かすのがままならないくらいの痛みなんて、この私に触れる愚かさを思えば安いもの。


 ところがすぐに返し技をしかけてくる。


 さすが総長と呼ばれるのも伊達ではないようね。


 でもね、私を甘くみないで欲しいわ。


 何やらまたも私の中でゴゴゴと燃える何か。


 最近ここの単純さに汚染されてるのかしら?


 三島の家もここもこんな感じだから。




 私は足もつかって抜け出そうと動くが今井先輩もそれを阻止してくる。


 ただその体からの拘束を解こうとしただけなのに、はたから見れば初めは甘いにしか見えなかったその行動が徐々に格闘の色合いが強くなっていく。


 こうなってくると小回りのきく形での戦いでなければ、不利なのは私だ。


 だんだんと体力がもたず息が切れてくる。


 あの祖母の元を離れたツケが今頃回ってくるなんて忌々しい。


 祖母の元にいた時は毎日身を守る為にと武道一般をたしなんでいたのだが最近はご無沙汰だった。


 だって三島本家にいるんだもの、暴力に関してはホンモノのところに。


 まして兄も一緒にいるのに自分で鍛える必要はないなと思ったの。


 まさかだわ、体力維持の為続けていればよかったと思うような事態に遭遇するなんて。


 ここは学校よね?




 今井先輩とビシバシ狭い範囲で腕や足を使って攻防していると、周囲の人間から感心したかのような声があがっているのが聞こえてきた。


 「すげえ」という声はスルーした。


 「姐さん!」という声には、思わず何だそれは!とキッとなり、誰だそんなこというのはと睨みつけようとして、その一瞬の隙をついて今井先輩に足を取られてついぐらっと倒れこみそうになった。


 あっ!と思った時にはそのまま今井先輩もろともかばうように抱き込まれながら倒れてしまった。


 

 そもそも、その体に抱かれている状況が嫌でその拘束から逃れようと頑張っていたのに。


 それがなぜ、その最初より状況が悪くなっているんだろう?


 私をかばって私の下敷きになっていた体をひょいと入れかえて、今度は下になった私に覆いかぶさる今井先輩。


 体操服一枚の私に、更に足をからめて密着する今井先輩。


 なにかが当たってる気がするのは気のせいでいいのよね?


 ええ、気のせいに違いなくてよ、断じて認めてはいけない!


 急に空気の色が甘いどころかどんどん腐りはじめている。


 だから、顔を近づけるな!やめてちょうだい!


 うわっ、顔をよけたら首を舐めてきた!


 覚えておきなさい!今は動けないけど・・・ちっとも動けないわ~!


 重いのよ!きっ!と睨みつけると、今井先輩は、


 「そんなに見つめるな」


 と低くかすれた声で言ってきた。


 こ・い・つ!


 私は今日は厄日に違いない、本当にそうだ。




 私はそっと私に近づく今井先輩に甘く囁いた。


 「場所くらい考えて」と。


 だってここ体育館の入口ですから、ちなみに外野もたくさんです。


 私がそっと囁いた途端、今井先輩の目が一瞬で燃えさかるのが見えた。


 あとほんの少し動けば唇が降れるその距離で、私はそのまま今井先輩の頭に両手をあげて抱き込む


 自分から動いたせいで、私に今井先輩の熱い息と唇が頬と唇をかすめた。


 私はそんな事をかまいもせずに、今井先輩に嫣然と微笑んだ。


 そうして私との距離が近いせいで表情もわからなくなった今井先輩の頭をもう一度しっかり抱きしめ、思い切りその耳にかみついてやった。


 耳がちぎれればいいとかみついた。


 さすがの今井先輩も声を上げ耳を血を流す耳を一瞬おさえた。


 けれど、耳に手をあて、少しちぎれかけたその耳をおさえながら、今井先輩はうっとりと笑っていた。


 あぁ、いけない、壊れている人だったわね、この人。


 私は自分のうかつぶりと、口にあふれるまずい血の味に眉をしかめた。


 そこに救世主があらわれた。


 久々に怒りにあふれたその声を聞いた。


 「何をしている」と。


 私は今井先輩ごしにその姿を見て、心から微笑んだ。


 それすらも耳に入らぬのか今井先輩は、私の血にまみれた微笑みに更に溺れて、うっとりと綺麗だと言いながら私の体にむしゃぶりつこうとする。


 

 私はもはや抵抗すらしない。


 なぜならもう大丈夫だから。




 


 

 




 



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