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たゆとう  作者: そら
23/25

第23話  何か忘れてる?

 体育館の床に落ちている「歯」と血だまりを、ボールが流れていったのを機に、タイムをかけて掃除をしてもらう。


 その時私は残りの2人、どちらも上級生に初めて声をかけた。


 ちょちょいと指を曲げて2人を呼ぶと、何やら髪を撫でつけながら意識してやってくる2人。


 私より背が高い彼らに更に近づくように、とジェスチャーをする。


 何で顔を赤らめるわけ?


 私はあきれてため息がでそうなのを堪えて、他の人間にはわからないように、


 「これからは私の指示通りに動いてちょうだい?よくて?」


 兄に時たま命令というお願いする時の、本気の顔で話しかけた。


 時間がないので本気モード100パーセントの私の「お願い」に彼ら二人は、赤かった顔を青くさせ、ぶんぶん一言も発さないまま、勢いよく首を振る。


 それもまた何故かむかつく。


 まぁ、いい、今は目前の敵だ。


 たおやかで美しいと言われるこの私に、あの凶暴なまでのボールを放り続けた罪は重い。


 私の指示はとても簡単だった。


 あの茶髪にむけて、徹底的にバカにした態度をできうる限りし続ける事。


 もちろん、ボールにあたるなど問題外、ひらりひらりと五分以上ボールを避ける事。


 一切ボールを受けるなど考えない事を徹底させた。





 残り三人。


 向こうは大勢残っている。


 ならやることは簡単だ。


 あの茶髪の男は、あのピアスの統一性のない石や色とりどりさから言っても、物事を深く考えられないはず。


 ボールを投げる時、いちいち髪をかきあげるさまといい、他の人間が持つボールを自分によこさせるのを見れば、おのずと彼というのがわかるというもの。



 さあ、今からよ。


 案の定、殆どのボールを支配している相手に、サササとよける2人と私。


 そしてその2人の男達の茶髪にだけ向ける挑発するかのような笑みに、だんだん切れてきた茶髪ピアス。


 「おら、俺によこせ!」


 とうとう大きな声で怒鳴りだす。


 そして、その単純さは、類友で同じような人達ばかり。


 何度も怒鳴られているうちに、「やってられない」そういうギスギスとした雰囲気が漂ってくる。


 一人熱くなる茶髪に別の意味で茶髪に熱くなる彼ら。


 しばしその雰囲気をもう一度確認して、私は二人の内の私のそばにいる上級生に言った。


 「次は死んでもボールを受け取ってちょうだい。わかったかしら?」


 私は綺麗に微笑んだというのに、また顔色をなくしブンブン首を上下にふる。


 失礼ね!


 そしてその上級生は、見事にボールをキャッチした、死にものぐるいで。


 するともう一人が同じように悲壮な顔で、彼の肩を叩く。


 何そこで熱い友情?


 何でそこで二人して私の顔を見る?


 まあいい、さあ、反撃の開始よ、私が本気で出るからには負けるなど許さないわ。





 茶髪ピアスは我が上級生2人に怒り狂ったままで、上手に指示をしていた先ほどまでとは雲泥の差がある。


 まず一人を射止め、2人目を射止めた、我がチーム。


 その度に私を怯えたように見るって喧嘩売ってるのかしら?


 私の心の声が聞こえたように、ブンブンまた首を横にふる2人。


 何?何の能力開花させてるの?ふっ、まあいいわ。





 ボールに当たって外野に出たものは戻れないルールなので、それなりに外野の応援もすごい事になっている。


 うちのチームの外野の皆さんのヤンヤヤンヤの拍手や声援。


 

 それとは対照的に今や静かな敵チームの外野。


 二人目が外野に出た時、茶髪君が「使えねえ!」と誰にともなく怒鳴った。


 それからは簡単だった。


 ん?それはね、その二人目が「何だと!てめぇ!」って、その茶髪君に殴りかかっていったから。


 それからは、大乱戦が勃発。


 うちの外野連中も、観戦していた方々も「ウォ~!」って雄叫びあげて、何故かそれに突入していった。





 ・・・何で?相手の乱闘は計画していたわ。


 不戦勝で勝ちなはずなのに、何でうちのチームの皆さんも嬉々としてそれに参戦してんの?


 ないでしょう?ないわよね。


 私はまたしても読み違えていた。


 この学校に、この学校関係者に私の常識も何も通用しないのだと。


 あの歯を折った、人より頭一つ高い大柄な先輩も「どきやがれ!」っと大声だして混戦の中腕を振り回していた。


 誰か教えてあげるといいよ、大口あけるたび、情けない事になってるって、その顔が。


 

 これって親睦の為の球技大会よね?


 今までで一番いきいきしているに違いない皆さんを見て、私はそぉっと体育館の外に出た。


 けれど入口から出てすぐにいた、現総長の今井先輩が、それはそれはいい笑顔で私の腕を引っ張り自分の体に抱き込んだ。


 そんな優しい笑顔はいらないんですけど、マジで。

 


 




 

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