第15話 覚悟
ぼちぼち書いていきます。
今年も良い年になりますように。
転入初日、私は新しい制服を、お手本とばかりに綺麗に、何の手も入れずに着た。
地味な紺のブレザーとグレーのプリーツスカート、ブレザーの下は白なら自由だというので、これは前の学園の白い丸襟のブラウスにした。
丸襟の縁は刺繍が施されていて、前の学園で唯一気に入っていたものの一つだ。
そして兄の薫ご自慢の私の髪は、そう、私の髪は自分で簡単に切る事やいじる事を許されていないのだ。
あの兄からのお願いという命令で。
普段放任主義の癖に、これだけは篠宮の家に入る前、あのアパートで母と暮らしていた、あの当時から、唯一兄がこだわっていたものだ。
私の髪なのに、これだけは許されない。
幼いあの日々、アパートに母が帰らない日が何日か続く事も最早慣れ始めていたあの頃。
きっと私もどこか不安定だったのだろうと今は思えるけど、兄と二人、飢えにさいなまれながら抱き合って、本当に少しの隙間もなく、まるで離れたら、何か怖いものにお互いを奪われるかのように過ごしたあの日々、私の髪の毛は、その頃、ざんばらで短いものになっていた。
覚えてはないけど、元よりあの頃の記憶は曖昧で。
その頃の私は自分の髪をいつも口に入れてひっきりなしに噛み続けていたらしい。
それを見るのが、同じように幼かった兄には、ひどく辛かった光景らしくて。
私が覚えているのは、あの暗いアパートで、兄と2人、母の帰りをひたすら、そのかもす足音をひたすらこがれて待ちながら、いつもお互いぎゅうぎゅう抱きしめながらみていた、あのアパートのドアだ。
不思議な事に、あのアパートのドアの傷の一つ一つでさえ、今でも鮮明に覚えている。
それとカサカサに乾いた手で大事に大事に兄とひがな1日見ていた、父の写真集。
あの暗い、時折電気さえ止めらたあの部屋で、青い青い空と山の景観は、兄と私の支えだった。
篠宮の家に引き取られて、いつだったか二人で話題のホラー映画を見た時に、すでに小学高学年になっていた兄は、怖がる私に、ぽつんと言った事がある。
「こんな作り物怖くない。僕は・・・・。」
その時、兄が過去の私を思い出しているのがわかった。
だから私は、「え~、私ってホラーだったの?」
とおどけて言った。
兄は私の手をぎゅっと握って、そのまま強い目をして黙ってしまった。
少なくても兄が、私の自分で言うのも何だが、この黒いつやつやしたこの髪に、何らかの意味を感じているのなら、逆らうことはせず、好きにすればいいと、今に至っている。
その長い髪を今日はそのまま流し、サイドだけ小さな貴石で飾られた髪留めで止めた。
全身をチェックして確認しながら、頭の先から足の先まで気合をこめ、鋭く一度凛として立って、鏡に映る自分ときっちり対峙する。
うん、よし!そう確認すると、勝手に私を動かした三島の男達を思い浮かべた。
私を、三島予備軍製造高校に通わせる自身の愚かさを、あの急造の従兄弟殿はいつ気が付くのか。
まあ、簡単には気がつかせてはあげないけどね。
新しい高校の2年半の生活を思い浮かべ、眠たがりのケモノをわざわざ起こした事をいつか後悔させてあげようと笑った。
鏡に映る自分は、まるで兄のように獰猛に笑っていた。
そこに部屋の外から声がかかった。
どうやら新しい学校にいく時間らしい。
おっといけない、いけないと思い、力を抜いていく。
そこにいるのは、ふにゃりとした最近の私だった。