第12話 変化
あれから兄は、本性バリバリにつきすすんでいる。
それまでが惰眠をむさぼる大型犬だとすれば、現在は疾走する獅子。
より冷酷に残忍に事にあたり、一部の隙を見せた相手には余すことなく徹底的にむさぼり食らいつくし、本当に骨の欠片も残さず、の仕事ぶりらしい。
これは兄付きの若宮さんが思わず私に感嘆を込めて言うんだから間違いないだろう。
長年のそういう稼業の人に驚かれ惚れられる仕事ぶりってどうなのよ、とは思うけど、私に降りかかる火の粉じゃないし、何の関心もない。
まったく本来の美丈夫ぶりに、カリスマ全開なんだから、私にとって迷惑極まりない。
私はあまりに兄がやる気満々なので、当初はここをひっかきまわすつもりでいたけれど、何か力が抜けたというべきか、今度は私が惰眠をむさぼらせていただいている。
それはもう縁側の猫状態だ。
本当にうちら兄妹はあまのじゃく極まれりだと思う。
祖母の家にいる時は、私が優美な生き物として疾走し、ここの家では反対に兄が疾走している。
そんな以前の私を知っているものが見れば、信じられないくらいに、だるだるの状態の私を兄は満足そうに見ている。
兄いわく、今の状態の私の方が、非常に蠱惑的で危ない、この家にいて自分に愛でられていろ!だ、そうだ。
そんなセリフを聞いたなら、いつもなら鼻で笑って幻の尻尾でその顔をひっぱたいてやるんだけど、自分でも重傷なくらい、な~んもやる気が出ない。
私ってマゾ?Mっ気なんて欠片も持ち合わせてないと思っていたけど、あの祖母と離れて以来、いまいち本調子が出ない。
愛情?そんな上等なものは持ちあわせていない、それは欠片ほども。
私は、あの血だけに縛られている愚かな家を出てから初めて祖母の顔をみようと見舞いに出かけることにした。