第11話 新しい日々
新しい家は、規模も別段、前の屋敷とはさほど変わらないが、出入りする人間の数は格段に増えた。
それもヤのつく人ばかり。
兄はすでにここの仕事についていて、このままいけば、おめでとう!次期後継者って感じ。
それなりにチームの時から顔は知られているらしく、私は知らなかったがときたま仕事の依頼も受けていたらしい。
兄はいい、兄は。
問題は私の立ち位置だ。
新しい義父は、「えっ?義父って無理があるんじゃない?」というくらいのナイスミドルの方だった。
50をいくばくか超えたこの人は、結婚はしなかったらしい。
認知した子はありあまるほどいるらしいが、一切かかわりを持たず、お金で解決してきたらしい。
らしい、ばかりの困ったさんだ。
本人いわく、「碌な子供がいない。」だそうだ。
それは反対に碌な女と付き合ってこなかったと言っているようなもの。
私が白い目で見てやると、若頭とか若頭補佐とかいう、普通の会社で言えば役付きの人達に、
「かわいい義娘に馬鹿にされた。」と泣きついた。
あほらし、貴方がどう言おうと、私は兄の枷としてここにいる。
私に目をつけた事をたっぷり後悔させてあげる。
私は義父、三島高志とここに引っ越してから2週間目にこうして面会した。
私が奥ノ院といわれる離れの自分の部屋で本を読んでいると、日付も大幅に変わった頃、酒臭い息をさせながらアホ兄がやってきた。
「お兄ちゃんが帰ってきたよ~。」
そう言いながら私の背中にガバリと張り付いてくる。
まだ口をきいてあげない私に、
「お兄ちゃんとおしゃべりしよ~よ。」
「さびしいよ~。」
と、泣き言を私の耳元で言ってくる。
兄の世話役になった30がらみの若宮さんに目配せをして、「ここはいいです。」と伝えた。
若宮さんは、きっちりと私達に礼をすると、他の数人を連れて出て行った。
兄と会うのも1週間ぶりか。
私は兄に目で問うた。
「どういうつもり?」と。
兄は私を更に背中からきつく抱きしめると、
「俺たちにふさわしい場所だ。」
そう少しも酔っていない低く冷たい声で私の耳元で答える。
兄と私は目を合わせた。
「お兄ちゃんは酔ってないぞ~。」
そう騒ぐ兄に、
「しょうがないわね。お酒を召すのもたいがいになさいませ。」
そう言って私は兄を私のベッドに寝かしつけた。
備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、だらしなくシャツをはだけた兄に飲ませる。
二人目があって笑いあったが、お互いそれは笑みとは程遠い獰猛なものだった。
確かに、あの屋敷ではいずれ限界がくる。
自慢ではないが兄はそういう人間で、私はその兄のたった一人の魂の血族。
兄が飛び立つのを邪魔していたのは私。
心のどこかで、もはや失われた家族の幻を見ていたがったのは私だから。
本当はずっと私の傍にいたかった兄が、小学校の高学年から家に寄り付かなくなったのは、夢をみていたかった私の為。
私は明かりを消して、兄が眠るベットに入る。
ベッドにいる兄は、私を抱き寄せじっと、じっと私を見つめる。
私も兄を見つめ続ける。
お互い輪郭もおぼろげながら、二人ぴったりと寄り添って、久しぶりに一緒に眠った。