第十話 ゴング再び
急に出かける事に・・・。
短いです。
「ふふふふふ。」と振り返り、口元を押え上品に笑う私。
先ほどの私の兄への悪態?それ何のこと?気のせいよ、とばかりに、更にオプションをつけて無垢に首をかしげるおまけつきの私。
「嫌ですわ、さすがお兄様のお知り合いだけあって、無意味なご冗談をおっしゃるのね。」
無意味を強調してやる。
「ねえ、お兄様、ジョークって、その方の人となりがそのまま出るって本当ですのね。とても楽しい方ね。」
私は冷たく三島を見つめ、けなしているのか褒めているのかわからない曖昧さで、けれど目では、あんたバカ?うん、バカなのね!いい歳をして、とわかるように、ふふふと綺麗に笑う。
それを三島は大人の余裕なのか、憎たらしいほどさらっと無視し、兄に向けて話しかける。
兄に向けて、だ。
「やはり、子供には大変だったみたいだな、大好きな身内が倒れて、妹さんは動転しているみたいだ。」
「まあ、うちは、基本、男所帯だけど・・・・・。」
そう言って、私を思わせぶりにみて、
「うん、問題はないみたいだな。大丈夫そうだ。」
「随分、しっかりしたお嬢さんで良かったよ。」
そう言いながら、このアバズレが、って感じで鼻で私を笑ってきた。
「ありがとうございます。人間として最低限の事は当然だと思いますもの。」
「ごく普通に生きていれば、身につく事ですけど・・・。褒めていただけてうれしいわ。」
私はチラッと三島を見て、その視線のみで、三島が普通ではない事をきちんとアピールしといた。
三島は、
「俺はかわいい従姉妹に期待していたんだが、いや、ほんと、イメージ通りのカワイサで嬉しいよ。」
と、私をわざわざ何度も見て言ってきた。
「ええ、皆さんにそうお褒め頂きますの。」
私はきちんとそう答えた、どう?スルーって時と場合によっては、最高よね。
「三島さん?でしたわね。何度も言うようですけど、私に新しい従姉妹はおりませんわ。ああ、そうでしたわね、日本語が少し不自由でいらっしゃるのよね。残念ですわ本当に。」
何で今さら、面倒に足を突っ込むわけ?絶対嫌だ、それこそ冗談じゃない。
厄介ごとの匂いがプンプンだ。
「お兄様、お兄様がお健やかに新しい家でお過ごしになるのを、私は反対はしませんわ。それではごきげんよう。急いでおりますの。」
そう言って、今度こそきびすを返す。
兄が何か言ってきているが、今度こそ無視だ、無視。
私は屋敷の自分の部屋の荷物を片付けるべく、そこを去った。
結局、私は部屋を借りるどころか、お金もおろせなかった。
どうしてって?
暗証番号がいつの間にか変えられていたからね。
それから一週間後、私は三島の家に迎え入れられていた。
お金で負けた私はとても金のかかるカワイイ養女になる事をしっかりと決心した瞬間だった。
兄とはあれ以来一言も口は聞いていない。
大きな図体をして、本家で一目おかれるようになった兄は、私をていのいい人質に獲られるという愚を犯した。
本当に一度懐に入れた人間に甘い兄。
そうして、どこまでも私を離そうとしない、困った人。
兄は、私もだけど、自分たち以外本当は信用していない。
兄が懐に入れた人間に甘いのも絶対の自信が自分にあるから。
それに私をこうして巻き込むのも、私が大丈夫だと知っているから。
それでも当分、兄にはお灸をすえなければ。
ここは新たな敵地。
兄はピリピリしているくらいがちょうどいい。
明日は三島の護衛を連れて祖母のお見舞いに行こう。
どんな顔をするか今から楽しみだ。
思った以上にショックを受けてくれればいいんだけど。
それに、あの三島慎二には今度遊んでもらおうか。
覚悟しておいてね。
私は自分が甘くみられるのがこんなに嫌いだとは知らなかった。
私は新しい居住先である本家の庭の東屋でお茶を飲みながら、上品に甘く夢見るように微笑んだ。