3話 大切だから大丈夫!
「それじゃあ、ユッコさん。行きましょう」
「はい! お任せ下さい!」
うんうん、やはり綺麗な人には笑顔が似合う。
十歳の幼子が百五十歳を超える女の子を可愛がるのはどうかと思うが、相手はエルフの血を引く女の子だ。人間としての年齢だとすれば十四歳程度でしかない。いやいや、それでも年の差はある方だったな。
それでも、その仕事ぶりには助かっている。
メガネをかけた綺麗顔の女の子の特性ならではなのか、仕事は他の人と比べてかなりできる方。というか、出来なければ俺や妹のパーティー専属の受付嬢にはなっていない。そして……何と言っても俺好みの顔過ぎて手を引かれている今ですらも心臓がはち切れそうになっている。そりゃあ、もう早鐘が打ち砕かれそうなくらいには。
「ああ、君の良さを四時間は語りたい」
「……え!? 何か言いました!?」
「あ! いや! 何も言ってないよ! うん!」
ヤバイヤバイ……愚かな口から言葉が漏れたか。
本音を言えばアイツの束縛から離れた折には三日程度は君と共にどこかへ赴きたいというのに、何故だか街に来てからは少しの休みすら与えられやしない。ってか、弱いのに俺をパーティーに無理やり捩じ込むとか本当にイカれている。
「ねぇ、依頼品自体は問題無かったの」
「え、ええ……質は少し良くは無いけど数に関しては規定数以上よ。まぁ、戦闘を主にしている人間に薬草や鉱石採取なんて難しい話でしょうし」
「質に関しては問題ないよ。どうせ、冒険者ギルドに流そうと思っていたからさ。アイツらの物に関しては自分達で取らせないと無理を言ってくるから気にしなくていいよ」
実際、依頼を出した時の目的は違ったけど。
ただ、ダンジョンが発現した今となっては攻略や開拓に必要な装備や魔道具が多くなってしまう。ハッキリ言って、この街にいる鍛治職人というのは程度が低い。腕が立つのは俺の師匠と数人のみだからな。それでは多くの人間が無駄死にしてしまう。
「本当に流してくれるの」
「友達は見殺しに出来ないでしょ」
「……うん、そうだよね。そういうところ好きだよ」
俺からすれば大切な人だって……って?
アレ……いやいや、聞き間違いのはずだ。確かに冒険者を減らしたくない一番の理由は戦争やスタンピードが起こった時の対処だった。その時にユッコを守れるか不安だからと……待て、それなら俺が養ってしまえば常時、安全な場所で俺を待ってもらう事だって出来るよな。
よ、よし……俺だって男だ。今こそ覚悟を持て。
「あ、あのさ……ちょっと気になる店が」
「おう! アランじゃねぇか!」
……はぁ、いつもの事とはいえ、本当に……。
ユッコも嬉しそうに顔を近付けてくれていたのに離れてしまったし……マジで手に入りそうだったものの全てが霧散したぞ。夢幻の如くなりってか、ふざけんじゃねぇよ。最高の夢を本当に幻に変えるとか苛立ちで済まねぇっての。
「少し貴方には空気を読む力が必要なようだ」
「お、おい! どうして! そんな! 怒りを!」
「うるせぇ……黙れ」
折角の良い雰囲気を叩き壊すとは……恥を知れ。
普通ならば一生、その息子が立たなくなる薬でもかけてやりたかったが薄めてやったんだ。今は軽い麻痺と共に二週間くらいのEDを味わうといい。嫁さんと良い気分になっても「アレ……ごめん……」とかいう微妙な雰囲気を味わい続けろ。
「さて、邪魔者は沈んだので確認しますか。もちろん、解体はユッコさんがしてくれたんですよね」
「ええ! 腕によりをかけたわ!」
「最高ですね! 楽しみです!」
二メートルはあろうかという邪魔者は倒れた。
この時点で先に続く淡いデートを妨害する人間なんている訳もないだろう。そのために邪魔者用の撃退ポーションを作っておいたんだからな。さてさて、ここからはユッコと楽しくイチャイチャ話を出来る訳だが……何か、表情が良くないな。
「……いいんですか」
「ああ、ハンズさんの事ですか」
「ええ、ああ見えて一応はギルドマスターなので雑多な扱いは不和を招きかねません」
ハンズの間の悪さは今に始まってないしなぁ。
ってか、この街に来て早々にアイツが俺にキスを迫る場面で現れて……まぁ、半殺しが可愛いくらいには優しくされていたし。それを鑑みれば二週間EDの刑は優しい方だと思う。現に子供が四人もいるような大家族だし……それに本人には言えないけどさ。
「あの人は意外と頭が良いんですよ。あの程度で怒るのであれば俺はギルドに手を貸していません。それに俺がギルドと対立するつもりが無い事をよく理解しています。その前提のもとで不和が起こるとなれば俺の目が曇っていた迄です」
「……ごめんなさい。聞かない方が良かったね」
「いえいえ、敵対しないと分かっているからこそ、友好関係を築いていますので。仮定の話はどうにも苦手なんですよね。アレもコレもと考えていては脳も心も五つあってまだ足りませんから」
それに今の俺の心は……って、言えやしないか。
そういう甘い言葉を簡単に口に出来ていたのなら臆病に呑まれてなんていなかった。こうやって君の手を俺から取れないのだって……あの時のように守れなかった非力感を味わいたくないだけだ。アイツがいるからと甘えていられない事実だってある。
「俺がユッコさんを守りますよ。死ぬまで、ね」
「……なら、絶対に私より先に死なないで」
「ええ、大切な人を残して死ねる程には優しい性格はしていないんですよ。例え、ユッコさんが三百と生きるのならば三百一年は生きてみせますよ」
知っている。彼女が本当に恐れている事を。
だから、こうして俺は冗談交じりに笑って返す事しか出来ない。だって、今の俺のいる空間というのは彼女を幸せにするには不自由な場所だ。何をしようとも必ずユッコを不安にしてしまう。不安というのは微かであっても大きな不幸へと繋がる感情だ。知っていて俺は……嘘をつく。
「それよりも、足が止まっていますよ。そんなに俺と一緒にいたいんですか。明日も明後日も、三百年先までは顔を合わせられるというのに強欲な人ですねぇ」
「意地悪……でも、いいです。約束出来るのなら許さないと……ダメですから」
何か口にした気がするが……いや、いいか。
好きな女の心情の全てを理解しようとするだなんて心を踏み躙るのとかわり無い。好きだからこそ、今は何も聞かずに少しだけ、ほんの少しだけ距離を近くにするだけだ。今は追い越せない背丈だとしても四年も経てば必ず……そう、確実に君の目の中を俺以外の何も無いようにしなくてはいけない。
「って、雑談するんなら座ってしようよ。仕事だって言うんだったら素材確認が先、そうやって俺を手玉に取ろうとしても喜ばれるだけですよ」
「……うん、そうだね。仕事をしよっか」
本音を言えば話していたいけど……無理だ。
確実にアイツらに怪しまれて終わるからな。ユッコとの関係だって繋がっていないから許されているだけで関わった瞬間に……やっぱり、早めに手を打っておいて損は無いのかなぁ。まぁ、無理だろうけどさ。
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