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11話 暴走したけど大丈夫!

「なぁ……やっぱり、俺なんて要らなくないか」

「何を言っているのか分からないけど、お兄ちゃんがいるから頑張って戦えるんだよ。見ていてくれないんだったら戦う理由だって無いし」

「カイリ殿、それは言い過ぎでござるな。拙者達は勇者として働いている身、嘘でも民のためと口にせねば文句を言う輩もおりましょう」

「そんなもの、勝手に言わせておきゃいいだろ」


 洞窟の最前線から歩いてくる高身長の甲冑。

 さすがは二メートル十センチの体躯を持つクロムだ。今の俺なら近くに寄られただけで軽く恐怖を覚えてしまうぞ。魔物を殺した返り血で染まった鎧とか誰が見ても怖いだろ。十歳児となった俺からすればもう泣く寸前ですよ、ええ、嘘ですけど。


「クロムは俺がいて嬉しいの」

「な! そんなもの! 当たり前だろ! この盾は主様を守るためにあるんだからな! アタシの力を舐めんじゃねぇよ!」

「鼓舞したいのか、甘えたいのか……本当にどっちつかずで意味が分からなくなるわ」


 頭を押さえているようだが……お前も大概だぞ。

 まぁ、今の言葉はハッキリ言って効いたな。知ってはいたけど面と向かって言われると感じ方が大きく変わってしまう。皆の方が圧倒的に強いというのに誰もが俺のためにと頑張ってくれる。その姿を見て何も思わない方が無理な話だろう。


「ん……お兄様、アリスも頑張ったよ」

「ああ、お疲れ様。でも、戦いはここからだよ」

「大丈夫、大概は後方支援だったから……前に出ても問題無い? お兄様が助けてくれるんだったら幾らでも戦えるよ?」


 へぇ……近接戦闘を望むなんて珍しいな。

 アリスは吸血鬼の女の子だ。確かに俺のような人族に比べれば腕力も魔力もかなりのものだが、それでも他の三人に比べれば目劣りする程には腕力が弱いからね。比較対象が化け物揃いな時点でおかしな話ではあるんだけどさ。


「アリス、それ以上はお兄ちゃんが困るから駄目。それに今はお兄ちゃんがいるからと言って甘えてはいられないんだよ。崩れたとしても前中後の動き方は変えたら駄目」

「……はい、分かっています」

「まあまあ、アリスは甘えたかったんだよ。それに後衛職が前に出れるのなら意表を突く手段にもなるからさ。否定だけでは前に進めないよ」


 アリスはずっと、その事に対して悩んでいた。

 普段なら言わない事を口にしてきたのは俺への信頼があるからだと思っている。何故だか知らないけれども皆は俺へ、阿呆みたいに大きな信頼を持っているからなぁ。その信頼に応えてあげないと兄として価値が無いって話だ。


「次は俺が後衛をするよ。前衛はクロムとアリスに任せようかな。カイリとフィアナは手を出さなくてもいい。多分、アリス一人で雑魚相手なら簡単に消せるからさ」

「……お兄ちゃんが出る幕は無いんだけど」

「ずっと荷物運びをさせられている鬱憤ぐらいは吐かせてくれよ。敵は最低でもオーガ、その時点で俺が前に出ようとは思えないからさ」


 前に出なくて済むのなら準備は幾らでも出来る。

 それに上手くいくのなら越した事なんて少しも無い。出来るか出来ないかはやってみないと分からないからね。仮に失敗した時には俺が無理やりにでも止めればいいだけの事だ。その程度で済むのなら命の一つや二つくらい容易に賭けられる。


「アリス、俺の期待に応えられるか」

「うん! 任せて欲しいの!」


 それなら少しだけ力を貸してみようか。

 あまり、やり過ぎると問題が起こった時に面倒な事になるから適度に、ね。そうだなぁ……とりあえずはアルコルと簡易的な強化を二人にしておけば他には必要無さそうか。他のリソースは最悪のケースのために残しておくべきだろうし。


「はぁ……なら、アタシの力でも見せようかい」

「……全域、いけるかな」

「舐め過ぎだな……咆哮ハウンドハウルッ!」


 おし、クロムの技が全体に広がったな。

 そこまで行けば俺のアルコルの発動タイミングになる。対象は残った階層の魔物全てでいいか。引き寄せ程度なら大した魔力も使わないし、どうせアリス相手では瞬殺されるのがオチだ。それなら少しだけ手心を加えてやろう。


 そうだね、転移で下層の魔物も引きずり出す。

 一先ずは百もいれば満足出来るかな。別に殺したところで快楽を得られはしないけど……どうせ、やるのなら派手にやらないとね。美学に欠けた行為は全ての意味をかき消してしまう。やるのならファンファーレが鳴る程の派手さを作ってやらないといけないな。


「付与完了……好きに暴れろ」

「主様の……思うままにィッ!」


 おお、形状変化、久し振りにみたな。

 単純に全身を吸血鬼本来の影の姿へと変化させる能力だったか。まぁ、吸血鬼本来の性を取り戻す影響で自我を失うが、それも含めて圧倒的なステータス強化を手に入れられるのだから対価としては十分だろう。それでも───




「あッはァ!」


 これは……さすがに自由にさせ過ぎたかな。

 先に制限とかをかけておけば楽だったか。とはいえ、どこぞのアホが好き勝手に使うせいで鬱憤が溜まっていただろうしなぁ。一先ずは魔物の討伐を終えた後でどうするか考えてみるか。目の前にいる魔物は強くてAランク程度しかいない。

 六つの黒い翼から放たれる苦無でほぼ殲滅だ。

 下に下に、と魔物は随時、追加しているというのに転移の直後に撃ち抜かれて死んでいる。撃ち漏らしも頭だけ揉ぎ取って殺しているから本当に化け物みたいな強さだよ。多分、こんな芸当はフィアナやイヴリンでようやく出来るかどうかか。とはいえ───




「てい!」

「ふへぇ……!?」

「暴走していいとは言っていませーん! そんな事をお兄ちゃんは許した覚えはありませんよ!」

「ご、ごめんなさい……なの」


 お兄ちゃんが許したのは暴れる事だけです!

 それ以上は本気で殺しにいかないとどうにもならないから許せる訳が無い。本気のアリスはイヴリンですらも手を焼く程だし、フィアナとクロムでは対処の一つも出来ないからね。とはいえ、怒ってばかりではやる気を削ぐだけになるか。


「大丈夫。でもね、その力は上手く扱えなかったら多くの人を殺す事になる。それと意識を失えばこういうさ」


 アルコルで背後に迫った魔物を壁に叩き付けた。

 うーん……記憶に正しければ普通よりも小さいな。なるほど、雑多に殺してしまったが変異種だったのかねぇ。それなら殺すよりも配下にした方が良かったかもしれないけど……躾けるのも面倒だからいいや。


「雑魚を取り逃す事になる。分かるか?」

「はぁ……オーガアサシンは階層ボス、それもSランクの魔物なんだけどなぁ。余っ程、お兄ちゃんの方が化け物だと思うけど」

「そんな訳あるか。完全に暴走したアリスなんて意識を取り戻させるので精一杯だっての」

「それが普通じゃないんだけどね……まぁ、いいや」


 そうそう、俺の魔道具は普通では無いのよ。

 それだけ認めてくれれば他には何も必要無い。俺は無能、それ以上の価値なんて見出されても面倒なだけだ。そこまでの強さなんて俺は欲していないし、出来る事を楽しみたい俺にとっては邪魔にしかならないからね。


「さて……もう少しだけ進んでみようか」

次回は明日の9時の予定です。

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