9話 喧嘩したけど大丈夫!
「なんで……こんなに遅くなったの」
「そうだね。まぁ、食事とかは」
「お兄ちゃんのがいいの!」
アホ毛を回転させて抱き着いてくる馬鹿がいた。
帰って早々にこんな事をしてくるのは他でもない妹のイヴリンくらいしかいない。銀髪にショートカットとかいう要素は……本当に俺の好みに合わせたとしか言えない姿だ。まぁ、当人に言えば何をしてくるか分からないから言えないけどさ。
「イヴリン……怒っている?」
「……今はカイリだよ。それと! 怒ってない!」
「ご、ごめん……本当にごめんね」
「それが! 嫌なの! 馬鹿お兄!」
おお……腹へのダイレクトアタックは効くな。
とはいえ、イヴリン……いいや、カイリからすれば遊びに近いものなのだろう。それですらも大ダメージになる俺の体の脆弱性を本気で恨みたくなるよ。それ程までに同い年でありながら力の差が列記として明確に離れているんだ。
それでも、そんな気持ちに支配されては駄目だ。
目の前にいるカイリは俺とは薄くしか血が繋がっていないながらも本物の兄妹だからな。今の見せてくれている素の姿が何を表しているか、その程度の女心くらいはさすがに俺にも分かる。
「な、何かしようか! ほら!」
「いい、別にいらない」
「そんな事、言わないでよ」
「いいもん……いい、本当にいい」
おいおいおい、妥協案は出してやったぞ。
普段ならそれでホイホイと釣られていただろ。なんだ、俺の案では不服だって言いたいのか。おいおい、みっともなく泣いてやってもいいんだぞ。今の年齢なら泣いたところで誰からも咎められたりしないんだからな!
「なんでお兄ちゃんが不貞腐れているの!」
「別に! もういい!」
「ふざけないでよ! もう!」
先に会話を拒否したのはそっちだからな。
俺だって話したくて立ち止まっているわけじゃないっての。建設的な会話にならないのなら話をしたって時間がかかるだけだろうに。ってか、コイツの場合はそれが長過ぎて対応するのも面倒なんだよ。なんだ、お前は彼女か何かか!
「膨れたって駄目! 悪いのはお兄ちゃんなの!」
「はほほっふ! へへは!」
「せめて言葉を口にして!」
はほほひ! ひひひふは!
へへほは……ははふほほ!
「だから! 普通に話しなさいってば!」
「なんで心の声が分かるんだよ!」
「なんか分かるんだもん! これが絆よ!」
それは確かにそうだけど!
ただ、だとしても、心まで読める状態になったらさすがにキモイって。確かに血は繋がっているけど妹である事には変わりないし、それ以上の関係を持つ気だって俺には無い。だって、普通に考えて面倒だし。でもまぁ……そういう事は目の前の馬鹿には言えやしないか。
「謝って。ごめんって……言って」
「ごめん」
「もう一回、じゃなきゃ……嫌だ」
「ごめん。放って、ごめん」
少しだけ俯いている姿は本当に愛らしい。
ただし、見た目だけだ。中身は勇者というよりは暴力ゴリラ、それもブラコンを鍛えに鍛えぬいた精鋭中の精鋭だからな。そんなブラコンを鍛えたのは果たして誰? もちろん、俺でーす!
俺達は転生者、簡単に言えば異端な存在だ。
死んだ時の事は未だに覚えている。死ぬまでの過程だって嫌なくらい脳裏に焼き付いているし、そこまで成長するまでの関係性だって産まれてすぐに理解したんだ。だから、俺のような無能が勇者の傍付きとしている事を許されている。
「許す。もう、怒っていないよ」
「よかった。今度、二人でどっか行くか」
「うん……それでいいよ。馬鹿お兄」
それだけ俺の妹の存在というのは大切だ。
勇者と呼ばれる千年に一人、生まれるかどうかの人族の英雄。しかも、産まれた家が名誉貴族とはいえ、代々王国の争いでは活躍してきた、腕っ節だけで成り立っている家だからな。本来なら俺がここにいる事自体がおかしな話だ。
でも、それを許さなかったのは妹本人だった。
まず、産まれた瞬間に俺の存在を探知して念話で連れて行くように指示。そこからは少しでも離そうとする度に大泣きして他者を黙らせるとかいう母親も真っ青な行動をしやがった。まぁ、詳しく言えば従兄弟だから母親は違うんだけど。
「で、どうして遅れたの」
「外で済ませてきたからかな」
「ご飯にする、お風呂にする……それともワ・タ・シ? に全部外で済ませてきたよ、みたいな返事をするな! 大雑把な返答過ぎて何も分からないよ!」
おー、よく分かったな。本当に恐ろしい子だ。
ってか、先読みされ過ぎて本当に怖くなってきたな。もしかして俺がやろうとしているネタ全てが手札の切り初めの時点で潰されるんじゃないか。いやいや、それではボケる楽しみもなくなりそうだから……もう、隠さなくていいかぁ。
「……これ、作りたくて」
「ふーん……誰のために」
「勇者パーティーのためだよ」
黄色い菊の紋を象ったエンブレム兼ブローチ。
まぁ、日本にいた時にはよく見たものだからね。そういう意味合いで作らせてもらった。どこまで行っても俺とコイツは日本で産まれ、育った存在でしかないからな。軽いホームシックや戻りたい気持ちがあってもおかしくは無いだろ。
「本当は攻略が終わったら……とか、考えていたんだけどね。まぁ、バレてしまった以上は仕方ないからあげるよ」
「……お兄ちゃんって本当にサプライズが下手くそだよね。そういうところ、日本にいた時に学んで来なかったの?」
「はぁ……彼女が出来た瞬間に邪魔してきたのはどこのどいつだったかな。計八人……仲を引き裂いてくれた恨みは忘れていないぞ」
「残念、実際はもっと居ます」
コイツ……だから、本気で面倒臭いんだよなぁ。
別に彼女が出来たとか、仲の良い女友達が出来たとか言う前に動き始めてくるし。何とか関係を保てたのなんて両指に収まる程度だったぞ。それも全員がコイツと仲が良いとかいう地獄セットだ。二人で映画を見るはずだったのに着いてきているとかザラだったぞ。
この世界に来たら変わるかと思ったら違うし。
むしろ、勇者としての力をフル動員して見付け出してくる執着は両手を叩きたくなる程だ。当たり前だけど恨みに満ちた目で叩いてやるけどな。そんな女が同じパーティーに四人もいるのだから頭が痛くなる。まぁ……それはそれなんだけど。
「これは勇者パーティーのエンブレムとして作ったんだ。カイリは確かに勇者だよ。だけど、それを疑問視する人達も少なからずいるんだ。だから、勇者の象徴となる何かがある方が動きやすいと思ってさ」
「……すごいね、本当にどこまで見ているの」
「見たいものを限っているから見えているだけなのかもしれない。それが正しいのかは俺には分からないけどね。もしも、本当に間違えないのなら俺達は死なずに済んだんだから」
明日も見えていません、なんて言えないよな。
どこぞの骸骨さんが言っていたけど、今なら気持ちが強く分かってしまう。俺はイヴリンの兄であって、誰よりも守りたいと思っている。そのイヴリンと共に歩みを進めてくれるフィアナ達も等しく大切だし、俺の後ろを着いてきてくれている皆だって変え難い程に優先順位の高い保護対象だ。
だから、その人達の前では胸を張り続ける。
俺が弱さを見せれば皆が不安になってしまうと分かっているから、弱いながらも強がって上に立つ者を演じなければいけない。それが守る者を持つ存在の失ってはいけない矜恃だ。少なくとも俺はそう信じている。
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