浮いた噂
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
動画を投稿してから一週間が経った。
あのとき千を超えた再生回数は、その後あっという間に伸び続け、気がつけば一本目は十万再生を超えていた。
コメント欄には相変わらず『CGだ』『編集だ』『仕掛けがある』といった疑念も並んでいたが、それ以上に『どうなってるの?』『続き見たい』『テレビとか配信者とかに呼ばれそう』といった声が増えていた。
私はというと、まだテレビ局等からの連絡など一切ない。
現実は案外そんなものだ。だが、確実に変わったことが一つだけあった。
――マッチングアプリだ。
最初に異変に気づいたのは、パート勤務のお昼休憩中だった。
何気なくアプリを開くと、未読メッセージの数字が見慣れない桁になっていた。
「……え?」
二桁。
しかも、そのほとんどが新規マッチングからのメッセージだった。
今までなら、こちらが「いいね」を押しても反応が返ってくること自体が稀で、やっとマッチしても「こんにちは」だけで終わるか、定型文のような質問が二、三往復して自然消滅するのが常だった。
それがどうだろう。
『動画見ました! 本物ですよね?』
『浮いてる人って、もしかしてABさん?』
ABとは私のマッチングアプリ用アカウント名だ。
『すごいですね! よかったらお話ししてみたいです』
私は思わず、周囲を気にしながらスマホを胸に引き寄せた。
「……やっぱり、そういうこと?」
プロフィールには、例の動画のリンクを貼っている。
正直、最初は遊び半分だった。
婚活用のプロフィールに載せるなんて、悪目立ちするだけだと思っていたし、年齢や職業を見た時点で弾かれる現実も嫌というほど味わってきた。
それが今、逆転している。
浮いているという一点だけで、男たちの視線が私に集まっている。
能力そのものではない。珍しさだ。話題性だ。
でも、それで十分だった。
「……ふふ」
思わず口元が緩む。
私は、選ばれる側に戻ってきたのだ。
その中で、ひときわ目を引くプロフィールがあった。
年齢、二十八歳。
職業、IT系ベンチャー勤務。
年収、非公開。だが写真や文章から余裕は感じられる。これはたぶん、多いから隠しているパターンだ。
清潔感のある短髪、笑顔。
プロフィール文も、妙に軽すぎず、かといって気取ってもいない。
『最近話題の動画、偶然見かけました。最初は信じてなかったんですけど、何回見ても不思議で。よかったら直接お話ししてみたいです』
年下。
条件良し。
しかも、文章がちゃんとしている。
「……あり、かも」
私の中で、久しぶりに現実的な期待が芽生えた。
刀理とは違う。過去もない。上下関係もない。
純粋に、今の私に興味を持って近づいてきている。
私は少し考えた末、メッセージを返した。
「ありがとうございます。正直、私自身もまだ戸惑ってる部分が多くて。それでもよければ、少しお話ししてみましょうか」
返事は、驚くほど早かった。
『ぜひ。よかったら今週末、お茶でもどうですか?』
話が早い。
こういうスピード感、久しぶりだ。
デートの日までの数日間、私は妙に浮き足立っていた。
動画の数字も伸び続け、フォロワーは一万人を超えた。
刀理からは「今は焦って動かないほうがいい」「変な話は全部俺に回して」と連絡が来ている。
だけど、私は違う方向にも進みたかった。
今の状況は刀理のおかげかもしれないけれど、同時に私自身の人生でもある。
――結婚。
――生活。
――将来。
母の言葉が、まだ耳の奥に残っている。
私は、この時点で身体よりも思考がフワフワと地面を離れており、こともあろうに、ここまでくれば刀理がいなくても自走できると考えてしまっていた。
デート当日。
待ち合わせは、駅近くのカフェだった。
私はいつもより少しだけ気合を入れて化粧をし、年相応に見えつつも老けすぎない服を選んだ。
鏡の前で一度だけ、浮いてみる。
床から数十センチ。問題なし。
「……大丈夫」
そう自分に言い聞かせて、家を出た。
カフェの前で待っていた彼は、写真の印象とほとんど変わらなかった。
背は高く、姿勢がいい。
こちらに気づくと、自然に手を挙げて微笑んだ。
「こんにちは。ABさんですよね?」
「はい。神谷さん……ですよね」
実際に声を聞いて、少し安心した。
軽すぎない。馴れ馴れしすぎない。
席について、注文を済ませると、彼はすぐに切り出した。
「やっぱり動画のこと、いろんな人から聞かれますよね?」
「ええ、まぁ……」
「正直、半信半疑でした。でも、こうして会ってみて、なんとなく納得しました」
「何が、ですか?」
「雰囲気です。なんていうか……作り物っぽくない」
その言葉に、私は少し笑った。
演じていない。取り繕っていない。
それが、今の私の最大の武器なのかもしれない。
彼は終始、私の話をよく聞いた。
浮遊能力のこと。仕事のこと。家族のこと。
年齢についても、一切触れなかった。
「……正直に言うと」
彼はコーヒーを一口飲んでから、続けた。
「最初は、話題の人ってだけで興味を持ちました。でも今は、普通に一人の女性として、もっと知りたいと思ってます」
胸が、少しだけ締め付けられた。
その言葉は、あまりにも都合がよかったからだ。
――でも。
私は思った。
都合がいいことを、全部疑っていたら、何も始まらない。
この日、私たちは次の約束をした。
それがどんな未来につながるのかは、まだわからない。
ただ一つだけ、確かなことがある。
私はもう、干されている女じゃない。
少なくとも今は、そう思えてしまっている。
その勘違いが、どれほど危ういものかも知らずに。
お読みいただきありがとうございます。
拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











