動画撮影
アマゾナイトノベルズ様より2026年1月6日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
男性にも女性にも読んでほしい作品です。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
刀理と決めた撮影日。
私はしっかりと化粧を整えて待ち合わせの公園で彼を待っていた。
母にあんなことを言われたからか、刀理に対して少しでも自分をよく見せようという心理が働いていた。
平日の昼間ではあるが人がまったくないわけではない。遠くからは少し憎たらしく聞こえる小さな子どもの笑い声があるし、公園に面した道路にもわずかながら車の通りはある。
私は今さらながら本当に浮遊能力を人前で見せてよいものかと不安に感じ始めていた。できることならベンチの上でのんびり日向ぼっこして羽を休める鳩になりたいくらいだ。
遠くから誰かが駆けてくる足音が聞こえて顔を上げると、刀理が片手を上げながら走ってきた。風に揺れる髪も、スニーカーに合わせたラフなコーディネートも妙に自然体で嫌味がなかった。
「お待たせ。さっそく始めようか」
そして私より少し遅れて来たくせに、その笑顔だけで帳消しにされるのがなんだか悔しく思えた。
「刀理、どこで撮影するの?」
「どこって……ここでいいだろ?」
刀理はまったくなんにも考えていないような表情で言う。
「けっこう人の目があるけど……」
「なに言ってんの。少しくらい人目についたほうがいいって言っただろ?」
「だけど、やっぱり私、不安になってきちゃって……」
「せっかく待ち合わせたのにか?」
「う〜ん……」
私が何も言えなくて困っていると、刀理は少しため息をついて言った。
「ま、でも、実際はほかの人のことを気にしてる人なんかそんなにいないよ。それに時間だって十秒くらいも浮けば十分だろ? きっとみんな、あれ、さっきあの人浮いてたように見えるけど……くらいにしか思わないって」
「うん……それなら……」
「なんなら、今日のところは少し茂みの中でやってみる?」
「ううん、大丈夫……言われてみればそんなに見てる人も多くないし……」
「なら、ちゃっちゃと撮影しちゃおっか」
「う、うん……」
私は彼に押し切られるようにベンチを立ち上がった。
彼は軽やかに笑ってスマホをズボンのポケットから取り出して見せる。
「スマホで撮影するの?」
「まぁね。最初は『浮いてみた』ってショート動画からだな。ほら、万が一ヤバい状況になっても、雑な動画のほうがなんとなく加工してましたで許されそうだろ?」
「よくわかんないけど、刀理の言うとおりにするわ」
私は変な反応を挟まぬように従う。
「で、視聴者の反応を見ながら『なわとび無双してみた』とか『バスケ無双してみた』とか続けてみようぜ? てか、バスケなんかルール破壊できんだろ」
「え?」
「ほかには『逆立ち指立て余裕すぎ』とか『五回転バク宙してみた』とか『ムーンウォークついに浮く』とか……」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って!」
私は刀理から次々と出てくる企画に驚き、慌てて止めた。
「……どうしたん?」
刀理は少しキョトンとした顔で私を見てくる。
「それ、本当にやるの?」
なわとびならまだしも、そこからうしろ回転なんて怖いし、バスケやムーンウォークにしても歩くよりも遅い速度でしか移動できないのだからいささか困難な気がする。
それに刀理の少し浮かれた表情からして今後も要求がエスカレートしていきそうな気がしてならなかったのだ。
「だって配信は継続していかないとさ……大丈夫だって。今日のうちに全部撮影しておいて少しずつ投稿していけばいいんだから」
「そうじゃなくって……私、そんなに難しいことはできないよ」
「う〜ん……かと言ってトーク系にしたところで、茜、喋るのあんま上手くなさそうじゃん」
「そうかな?」
「俺とは話し慣れてるとは思うよ? でもマッチングアプリとかで、うん、とか、わかりました、とか、相手が会話続けるのに困りそうな反応しかしてなさそうだし」
私はバカにされたようでムカッとした。
「なんでマッチングアプリとかの話になってんのよ!」
「だって茜、どうせやってんだろ?」
「なんでそんなことわかんのよ!」
「あの店のパートだけじゃ大変そうだし、そういう女の辿り着く先は結局逃げ道としての結婚、寄生先探しだからな〜」
「ちょっと失礼じゃない!?」
「違うなら謝るけど」
「じゃあ謝ってよ」
正直なところ違わないが、私はムカついて、ただ謝ってほしかった。
「あ、違うんだ……じゃあごめん」
彼は笑顔で謝った。
「じゃあってなに! その軽い言い方がムカつく」
「そんなことよりホレ、どうせ撮影するしかないんだから効率的に動こうぜ?」
絶望的なまでに噛み合わせる気のない会話。しかし刀理には悪びれた様子は一切ない。
「そんなことって、私のことだよね!?」
「そうに決まってるだろ」
「なんでそんな軽く扱われなきゃいけないわけ!?」
「嫌なら別に俺はどうだっていい話なんだ、終わりにして帰るぜ?」
一瞬だけ刀理は眉をひそめ、私を脅すように声を低くした。しかしそんなふうに冷たく言われても私は折れざるをえない。
「わかったわよ……黙ってればいいんでしょ! 黙ってれば!」
「いや、そこまで言うつもりもないんだが……別に普通にしてりゃあいいじゃん。変に気を遣う仲じゃあるまいし」
刀理はまたすぐにいつもどうりのひょうひょうとした態度に戻る。
私にはまだまだ刀理に言いたいことがたくさんあったが、私の目的達成を考えれば悔しくとも感情を飲み込まざるをえなかった。
なんだろう。昔の刀理とは明らかにパワーバランスが変わっているのを感じる。わがままを言える立場じゃないという圧力をひしひしと感じるのだ。
刀理が少し冷たくなったのだろうか? いや、多少の変化はあるにしろ、私が見たところ意地の悪い捻くれた陰キャとも思えない。
要するに、私がチヤホヤされる立場ではなくなったがための変化なのだろう。
こんな冷遇もこれからの私はずっと受け入れていくしかないのだろうか……。
私がモヤモヤとした気分に暗くなっているうちに刀理は着々と撮影の準備を整えている様子だった。
「刀理、あんたモテないでしょ?」
その淡々とした様がどうにも憎たらしくて、私の口をついて悪口が出てしまう。
「別にモテなくても構わんよ?」
余裕の態度がますます腹立たしい。
「あんたねぇ……子どもとか欲しくないわけ?」
「そりゃあ欲しくないって言えば嘘になるけどな」
「じゃあ結婚とかしなきゃダメなんじゃないの?」
「別に無理してまでするつもりはないってことかな……嫌ってほどのことでもないが」
「なにそれ!」
私はつい片足を踏み鳴らした。
ところがそれを見て逆に刀理はとても嬉しそうに笑う。今日一番の笑顔と言っても過言ではない。
「あ! それいいね! プンスカ踏み鳴らしたら反動で浮いちゃった件、いってみようか」
「……」
あぁダメだこいつ。私に全然興味が向いてないや……。
私はプカプカと浮かび上がりながらもがっかりと肩を落とした。
結局のところ私たちは公園内でも人目を避けるように何本かの撮影を済ませたのだった。うっかり人に見られてしまったならそれでいいくらいの感覚で。
ただシンプルに浮いて降りるだけのショート動画に、浮いた状態で縄跳びをグルグル回して宙吊りでないのに足元に何もないアピールをする動画、それからウケを狙ったのかプンスカ地面を踏み鳴らす企画まで演じさせられていた。
撮影を終えて私たちはまた同じ公園のベンチに並んで腰掛けている。
「いやぁ、いい絵が撮れたな〜」
刀理は満足そうだった。
「こんなレア体験、滅多にできないよな」
彼がそう言ったとき、改めて私は自分独自の強みができたのだと思った。
ただ少し浮くだけのなんの意味もない能力だけど、それでもおそらくは世界で私だけの価値。
「私のすごさがわかった?」
私は少し鼻を鳴らし、胸を張って言った。
「それを意図的に習得してるなら俺もひれ伏すが、現実には勝手に得た能力だろ? 宝くじに当たったみたいなもんで別に茜がすごいわけじゃないだろ?」
「あ〜! その顔は悔しいんだ〜!」
私はここぞとばかりに刀理の頬を人差し指でつつく。
「うっせ!」
「私に抱きついてまで飛びたがったくせに〜!」
「仕方ねーだろ、そんなレア体験をぶら下げられて……」
「刀理、ちょっと言葉遣いが乱暴になってるよ?」
「なってねーし」
と言ったあとにハッとした彼の顔を見て、私はニンマリと笑った。
「へぇ〜? そっか〜? 私と一緒にいるとそんなメリットがあるんだ〜?」
「だけど結局、俺は飛べなかったじゃないか……」
「わからないよ? この先、バク宙とか練習するなかで一緒に浮かべるようになるかもしれないし」
「……くそ、悔しいが魅力的な話だ」
「あはっ! 私、自分の新しい魅力に気づいちゃったなぁ〜……? 私と仲良くしておけば将来的に得するかもよ〜?」
「……ぐぅ」
刀理は悔しそうに腕を組んで唸っていた。
「ま、いいんじゃね? そんな唯一の魅力があればきっとマッチングアプリでもモテモテかもな」
急に開き直ってか、刀理はなかば投げやりになって言う。
「あ〜! そんなふうに強がっちゃって〜! うりうり〜」
私は刀理を肘でつつく。
「なんで強がりになるんだよ?」
彼の不満げな顔が何より私の挑発に乗ってしまっている証拠だった。
「だって元カノが幸せそうにしてるの悔しくないの〜?」
「ふ〜ん。茜は今、幸せなんだ?」
「これからなる予定なんだってば」
「そっか。じゃあ幸せになったときにぜひ俺を見返しておくれよ」
「その余裕の態度がいつまで続くか楽しみね」
私たちは不敵に微笑みあった。
いざ撮影を終えてみればそんなに難しい話ではなかったし、これで一躍有名になれれば今のような不安から解放されるのではなかろうか。
たしかに能力としてはなんの役にも立たないような能力だけど、世界で唯一の価値が金銭に置き換わるだけで何一つ不自由ない生活が送れるのではないか。
私はなんの根拠も見通しもなく、漠然とそんな未来を想像していた。
「さて。撮影も終わったことだし、刀理、今日はどこかでお昼でも食べて解散する?」
私は撮影も一段落したところで刀理に打診した。しかし刀理はそれに苦笑いで返してくる。
「今日は遠慮しておく。動画の編集もしておかなきゃだし、今日は急な話だったんで午後は予定が入ってるんだよ」
「午後の予定ならお昼くらい一緒に食べたっていいんじゃない?」
私は食い下がる。刀理と再び仲良くなるきっかけになればいいし、あわよくば美味しいものをご馳走してもらおうという気持ちもあった。
しかし彼はそれを見抜いていたかのように嫌な顔を隠しもせずに言う。
「じゃあ茜の奢りなら行くよ」
その気遣いのない発言に私はイラッときた。
「なんで女に奢らせようとしてんのよ」
「なんで男に奢らせようとしてんだよ」
刀理がわざと挑発するようにミラーリングしてきたので私もついカチンときてしまう。
「女は化粧や身なりに気を遣ってるんだから当然でしょ」
「ははっ。茜お前、もしかしてマッチングアプリでも相手に同じこと言ってんのか?」
今度は完全に私をバカにしているのか鼻で笑った。
「何が悪いのよ! 男が女に奢るなんて当たり前のことでしょ? 刀理こそそんな態度で平気なの!?」
「あは。その反応、やっぱり茜マッチングアプリやってるんじゃないか」
やられた! さっきから刀理の奴、隙あらば私がマッチングアプリを使ってるのか聞いてきていたけど、煽るように言われたせいでついムキになってわかるように答えてしまったのだ。
「あ! はめたわね!」
「別にいいだろ? それくらい聞いておいたってさ」
「なんでよ」
私はまだ出会いがなくてマッチングアプリを使っているのだとバカにされたような流れの会話が続いていると思っていたので喧嘩口調のように言った。
だが刀理はそこで急に、私がハッとするほど真面目な顔になって私を見据えてきた。
「俺が知っておきたいから……って言ったら、どうする?」
「えっ……!?」
私は思わず息を飲んだ。
「それって、どういう……?」
少し期待が正直に表情に出てしまっていたかもしれない。だが、私はたしかに心臓が高鳴っているのを感じていた。
「茜がアプリを使ってるのかどうか気になるからだけど……なんでだか、言わなきゃわかんない?」
私は刀理の急な態度の変化に戸惑ってどう反応してよいかわからず、つい目をそらしてしまった。
「え……っと……わ、わかんない……」
本当はわかっているのに、私はその先の展開を読み切る自信がなくて、無知なふりをして逃げてしまっていた。
きっと本当は刀理も私のことを知りたかっただけなのだ。
憎まれ口のように私をからかってはきたものの、要は私がマッチングアプリをしているということは、自分以外の男性と接触する可能性があるというわけで、刀理はそれが嫌だったということになる。ただその聞き方が少し不器用で下手くそだっただけで、それさえわかっていれば私がそれに思い悩む必要はないし、むしろ彼の好意を微笑ましく見ることだってできるのだ。
しかし残念なことに私ももう恋愛から遠ざかって長くなるからか、どうも不意打ちに対応できなくなっていたようだ。
上手く受け答えができれば今の刀理の打診をきっかけにすぐ仲良くなれたかもしれないのに、私は少し臆病になって身を引いていた。
「そ……ま、いっか」
そんなふうに彼はまた雰囲気を崩して笑った。
「ともかくスマンな……そんなわけで今日はどうしても外せん用事なんだわ。昼食の件はまた今度ということで」
「……わかったわ」
私は垣間見えた彼の気持ちから焦る必要はなかったのだと少し冷静になり、彼の断りを受け入れることにした。
でも、私はそれをちゃんと笑顔で言えていたと思う。
一緒にランチには行けなかったけれど、不思議と嫌な気分じゃない。それよりも今の会話から得られたもののほうが私には大きかったような気がするのだ。こうして彼と定期的に接触していればまた同じように進展のチャンスは来るだろうと思えることはことのほか嬉しかった。
「じゃあ要件ばっかりで悪いけど、今日はこのままここで解散な。また連絡するからさ」
「うん。わかった」
そしてそのまま私たちは解散し、その後の予定もなかった私は一人で買い物でもして帰宅することになった。
だがその買い物にしてもいまひとつ精彩を欠くというか、呆然と何を探しているのかもわからないような状態で歩き回っているだけで、心ここにあらずと言った具合だった。
その原因がまさかあんな嫌なからかい方をしてきた憎たらしい態度の刀理に心奪われてしまっていたからと気づいたのは家についてからで、私はベッドに身体を投げて大きくため息をつくことになってしまった。
思えば恋愛ごとでモヤモヤしたのなんていつ以来だったろうか……。
私は嬉しくもありながら、また新しい多少の不安も感じていた。
そういえば、この歳になったらどう恋愛をしていけばいいのだろうか……。
考えてみれば私と刀理はすでに関係を持っているし、進展するとなればすぐにそこまでたどり着いてしまうのだろうが、私は、さっき刀理が真面目な顔で迫ってきたとき、一気に関係が進むことを恐れて足踏みをしたのだ。
とはいえ、それで刀理に身を引かれてしまっても嫌だ……。
私は、もう少し素直に自分から好意を伝えていったほうがいいのかと、そんなことを考えていた。
お読みいただきありがとうございます。
ちょっとテーマがエグすぎたのか更新を止めてましたが、一応最後まで書き終えたのでポチポチ適当に最後まで更新していく予定です。
あと、拙作『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』
2026年1月6日 アマゾナイトノベルズさま より電子書籍化!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
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男性にも女性にも読んでほしい作品です。
いくつか下のほうに表紙とリンク貼っておきます!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











