死なない人間
アマゾナイトノベルズ様より2026年3月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
目を開けたとき、私は「生きている」という感覚をすぐには理解できなかった。
暗い。静かだ。時間が止まったみたいに何も変わっていない。
――あれ?
意識だけが、ぽつりと戻ってきた。
胸の奥に、痛みも、苦しさもない。
首を吊ったはずなのに、呼吸は勝手に続いている。
「……?」
視界の端で床が妙に遠いことに気づいた。
そして私の足がプランプランとブランコのように揺れている。
違和感。
それは恐怖ではなく、どこか間抜けな、説明のつかない違和感だった。
「……あ」
思考が追いつくより先に身体が理解してしまった。
――浮いてる。
ほんのわずか、信じられないほど自然に、宙に。
その瞬間、私の喉から音が漏れた。
「……ふ」
抑えきれなかった。
「……ふふ、ふ、あは……」
笑いだった。
最初は乾いた、壊れたみたいな笑い。
でも次第に、お腹の奥から本物の笑いがこみ上げてくる。
「あははははははははは!」
声を上げて、一人で、誰もいない部屋で。
「ねぇ見て! 私、死んでる! 首吊って死んでるよぉー! プランプランしちゃってるぅー! でも生きてるぅー! あははは! あはははははっ! 死ねねーのかよ! 私、首吊っちゃっても死ねねーのかよ! これが浮遊能力の真価かよっ! アホくさ!」
私は自分の身体をオモチャみたいに縄で括ってプランプラン揺らしながら、しばらく大声で笑っていた。
「なに、これ……ほんともう私、救いようがないじゃん!」
涙が出る。
悲しみの涙じゃない。悔しさでもない。
可笑しくて、仕方がなかった。
「私……」
息が乱れる。
「死ぬときにまで、浮くのかよ……?」
笑いながら、泣きながら、身体が小刻みに震える。
何の役にも立たないと思っていた。呪いだと思っていた。人生を歪めただけの能力だと。
その浮遊能力が、よりによって今、一番どうでもいい場面で、一番邪魔な形で発動している。
「……最悪」
そう呟いた瞬間、また笑いが込み上げる。
「ほんと……最悪」
――死なせてもくれない。
――最後まで、私を裏切る。
でも、その裏切りは、なぜか、優しかった。
私はふっと力を抜いた。
もう、抵抗しない。
浮いている身体をそのままに任せる。
天井を見上げる。
さっきまで世界の終わりだと思っていた天井。
今はただの白い板だ。
「……私、一回、死んだつもりだったのに」
声は驚くほど落ち着いていた。
胸の奥にあった、あの黒い塊が、いつの間にか消えている。
代わりにあるのは、奇妙な軽さ。
――もう、どうでもいい。
世間の評価も、男たちの条件も、能力の値段も。
死んだつもりになったら全部どうでもよくなった。
「……私さ」
独り言が、自然に続く。
「もう一回、生きてもいいかも」
理由はない。
希望も、まだない。
でも、さっきまで確かにあった「終わらせたい」という衝動が、嘘みたいに消えている。
浮いている。
それだけの事実が、今はやけに現実的だった。
「浮いてる女が、死ねないって……」
鼻で笑う。
「……漫画かよ」
でもその“漫画みたいな現実”に私は初めて救われていた。
何の役にも立たないと思っていた浮遊能力。
人生を壊したと思っていた浮遊能力。
それが今、生きろとも死ぬなとも言わず、ただ結果として生を残している。
「……もういいや」
私は静かに目を閉じた。
今度は、終わらせるためじゃない。
一度、全部をリセットするために。
一回、死んだ。
だから次は、何をしてもいい。
浮いている身体が、ゆっくりと、床へと近づいていく。
生きている。
もう私を括りつけているものは何もない。
その事実だけが、たしかにそこにあった。
「あ! とりあえずこれ動画にしよ! ま、すぐ削除されるだろうけどね! あはは!」
私は、確実に吹っ切れていた。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
2026年3月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
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