終わらせる覚悟
アマゾナイトノベルズ様より2026年3月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
部屋は、静かだった。
エアコンの音も切っている。
冷蔵庫の唸りも、廊下の生活音もない。
生きている気配を、できるだけ消したかった。
私は床に座り、自分の両手をじっと見つめていた。
何かを生み出した手でもない。誰かを守った手でもない。愛された記憶を残した手でもない。
浮いていただけの手。金を引き寄せただけの手。人を殺した手。
話題になって、消費されて、飽きられて。
そして今は何の役にも立っていない手。
スマホは伏せて置いてある。
検索履歴はもうこれ以上増えなくていい。
どの言葉で調べても結局たどり着く場所は同じだった。
『苦しくない』
『迷惑をかけない』
『確実に終わる』
その三つを満たす方法を探す自分を、途中から、もう他人のように見ていた。
「……やっぱり、私って」
声に出すと、部屋の空気が微かに震えた。
「何もなかったな……」
愛された記憶も、誇れる選択も、守りたかった誰かも。
振り返れば、すべてが条件付きで、すべてが仮だった。
男たちは身体を見ていた。能力を見ていた。世間は話題を見ていた。金持ちは遺伝を見ていた。
――私を見ていた人は、誰もいない。
刀理ですら、違った。
優しさは、同情か、嘲笑か、余裕だった。
それに気づいた瞬間、胸の奥で、何かが音もなく折れた。
泣くほどの感情は、もう残っていない。
怒りも、悔しさも、恨みも。
すべて出し切ったあとに残る乾いた空洞だけがあった。
「……生きてる意味、ないよね」
答えは返ってこない。
返ってきたところでもう信じられない。
金があっても、能力があっても、話題になっても。
“私である必要”は、どこにもなかった。
ゆっくりと立ち上がる。
身体は不思議なほど軽い。浮く感覚とは、また違う。
――ああ、これが“終わりを決めた”ってことか。
カーテンを閉め、部屋を薄暗くする。
外の世界ときっぱり切り離したかった。
もう、誰にも見つからなくていい。誰にも説明しなくていい。
浮く理由も、生きる理由も、全部、もう要らない。
「……ごめんね」
誰に向けた言葉なのか、自分でもわからないまま呟く。
両親かもしれない。過去の自分かもしれない。
それとも、“生きていたはずの可能性”か。
部屋の中央に立ち、吊るしたロープを手に取り、深く息を吸う。
これで終わりにしようと、はっきり思った。
迷いは、ない。
恐怖も、ない。
あるのはただ、やっと終われるという静けさだけだった。
私は目を閉じる。そして踏み台を蹴る。
――苦しい。でも、これで、全部終わる。
そう確信した、その瞬間に私の意識は消えた。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
2026年3月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
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しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
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