荒れに荒れて
アマゾナイトノベルズ様より2026年3月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
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あの日から時間の感覚がおかしくなった。
朝なのか夜なのか、平日なのか休日なのか、それすら曖昧なまま私は部屋で過ごしていた。
刀理と完全に切れたあと、スマホはほとんど触らなくなった。
通知を見るのが怖いわけではない。むしろ、何も来ないことを確認するのが怖かった。
誰にも必要とされていない現実を画面越しに突きつけられるのが耐えられなかった。
――私は、もう十分稼いだ。
――これ以上、誰かに気を遣う必要なんてない。
そう言い聞かせながら、冷蔵庫の中にある缶を一本、また一本と開けていった。
妊娠中に酒を飲んではいけないことくらい、知っている。
病院でも嫌というほど言われてきた。
でも、その「常識」は私にとってもう、何の意味も持たなかった。
――今さら何を守れっていうの。
守る理由が見当たらなかった。
子どもは「商品」で、自分は「容器」で、その関係に愛情も未来もない。
それでも金は入る。それだけが唯一の拠り所だった。
グラスに氷を入れ、安いウイスキーを注ぐ。
氷が溶ける音がやけに大きく、部屋に響いた。
「……少しくらい、いいでしょ」
誰に向けた言葉なのか、自分でもわからない。
一口飲む。喉が焼けるように熱い。
二口、三口。身体がじんわりと緩んでいく感覚だけが今の私にとって唯一の救いだった。
お腹に手を当てる。
そこに「命」がある感触は、たしかにあった。
でも、それが愛おしいとはどうしても思えなかった。
「……ごめんね」
そう呟いた自分の声が、ひどく他人事に聞こえた。
罪悪感がないわけではない。
ただ、それ以上に、どうでもよかった。
翌日も、その翌日も、私は酒をやめなかった。
体調が悪いことには気づいていた。
吐き気、めまい、下腹部の鈍い痛み。
――ストレスのせいよ。
そう片づけて、病院には行かなかった。
行ったところで「お大事にしてください」と言われるだけだ。
何を、どう大事にしろというのか。
そして数日後、朝起きたときには違和感があった。
シーツが、冷たい。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
トイレに向かい、下着を見て、私はようやく理解した。
「……あ」
声にならない声が漏れた。
血。
はっきりと、疑いようもなく。
頭の中が、真っ白になった。
――殺した。
慌てるべきなのに、恐怖を感じるべきなのに、不思議なほど、感情が動かなかった。
――ああ、終わったんだ。
その感覚だけが、はっきりしていた。
病院に運ばれ、淡々とした処置が行われ、医師の口から告げられた言葉は驚くほど事務的だった。
「流産です」
それだけだった。
原因について明確な断定はなかった。
『ストレスが強かったのかもしれませんね』
『体に負担がかかっていた可能性はあります』
『年齢の可能性もあります』
いや、本当はもう、原因はわかっているんだろう。
――つまり、私のせい。
そう言われたも同然だった。
私は、何も言わなかった。
泣かなかった。取り乱さなかった。
ただ、天井を見つめていた。
数日後、実家に戻った私は妙な軽さを感じていた。
お腹が、軽い。身体も、心も。
代わりに何か大きなものが、ごっそり抜け落ちた感覚だけが残っていた。
――私は、何をやってるんだろう。
初めて、そう思った。
金のために、見返すために、意地のために。
全部、何一つ、残らなかった。
机の上にはまだ手をつけていない酒の缶があった。
私はそれを見て、ふっと笑った。
「……バカみたい」
でも、その缶を捨てる気にもなれなかった。
何もかも失ったわけじゃない。
そう思わなければ、立っていられなかった。
本当はもう、立っている必要なんかないのに。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第3巻!
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