刀理の本懐
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
「……あなたの子どもなら、産んでもいい」
自分でも驚くほど声は震えていなかった。
胸の奥で何かが決壊している感覚はあるのに、言葉だけは妙にまっすぐに出てきた。
一瞬、空気が止まった。
刀理は瞬きをひとつしたあと――ゆっくりと、口角を上げた。
「……あは」
乾いた笑いだった。
「あはははははは!」
プルプルと堪えるように腹を抱えていたかと思えば、今度は反り返って手で顔を覆い隠すように笑う刀理。
「わっはっはっはっは! もう無理! わりぃみんな! もう俺、堪えんの無理!」
抑える気もない、腹の底からの笑い。
瞬間、店内中から笑いがドッと沸いた。
「……な、なに?」
私は戸惑って問いかける。だが刀理は笑いを止めない。
「いや、ごめんごめん」
そう言いながら、目尻に浮いた涙を指で拭った。
「さすがに耐えきれなかったわ。その台詞、どんな顔で言うのか気になってさ」
「……どういう、意味?」
胸の奥が、嫌な音を立て始めていた。
刀理はストローを指で転がしながら、なんでもないことのように言った。
「産んでもいい、か。ずいぶん偉そうだな」
「……え?」
「いやさ」
彼は私を見ない。テーブルの木目を眺めたまま、淡々と続ける。
「産んであげるって言いたかったんだろ? 昔からそうだったもんな。茜」
背中に冷たいものが這った。
「な、なにを……」
「大学の頃からだよ」
刀理はようやくこちらを見た。
その目には、もう一切の温度がなかった。
「俺と付き合って“あげた”。童貞を“貰ってやった”。今度は子どもを“産んでやる”。一貫してるよ。すげぇよ……さっすがはFBBAだ」
「……やめて」
「やめないよ。ここからが本題だろ」
刀理は背もたれに体を預け、腕を組んだ。
「勘違いしてるみたいだから、はっきり言っとく」
喉が、ひくりと鳴る。
「俺、もう子どもいるぜ? 結婚もしてる。だからお前の提案はノーサンキュー」
そう言って刀理は左手にはめた指輪を私に堂々と見せてきた。
「は!? ……だ、だって刀理、あのとき彼女とかいないって言ってたじゃない!」
「そりゃそうだ。結婚して彼女から妻になってるからな。今は、っていうか、もうしばらく彼女なんかいねーよ? 作る気もねーし」
「だ、だって指輪してなかった!」
「あっは! 偶然外してるときだってあるでしょ。なに? そんなとこ見てたんだ」
私は察した。再会して私の相談ごとを持ちかけたあのときから、刀理はこうなることを予想してわざと指輪を外して私を待ち構えていたんだ……!
「騙してたのね……!?」
「人聞きの悪い言い方やめてくれよ。そっちが勝手に誤解しただけだろ? 俺、なに一つウソはついてなくね? しかも、口説いてもなくね?」
ドッと店内から笑いが巻き起こる。
嵌められた。このカフェの中にいる人間は、全部私の敵だったのだ。
私は、敵に待ち構えられていたのだ。
堂々と私にカメラを向けてくる人間もいた。
「ちょっと! やめさせてよ!」
「知らんがな。別に居合わせた外野は俺の知り合いでもなんでもねーぜ?」
「じゃあ場所を変えてよ!」
「いいよ。じゃあ、あの公園にでも行こうか」
刀理はニヤニヤと卑しい笑みを浮かべ、私を見下しながら、速やかに会計を済ませた。
公園のベンチに移って私は刀理を大声で叱責した。
「なんでそんなことするのよ! 私が何をしたって言うのよ!」
「お前、自分の胸に手を当ててみても本当に悪いと思うところがなさそうだよな」
刀理は呆れたように言った。
「……は?」
「どうせ思い当たらないだろうから、クイズにはしねーよ? ……お前が勤めてたパート先の店長、井丑一千な。俺の友達なんだよ」
「は? それがなに?」
あの気持ち悪い店長か。もう店を辞めた私は本当にどうでもいいことだと思った。
「まぁたしかに、一千はあんまり要領のいい奴じゃないけどさ。性根は真っ直ぐで、俺からしたらすげぇいい奴なんだわ」
「だから、それがなに?」
「お前、あいつにずいぶんな扱いをしてくれたみてぇだな」
「は? 知らないわよ! そんなこと!」
「ま、そういうこった。どうせ身に覚えなんざねーんだろうなって思ってたよ。だけどな、やられたほうは覚えてる。俺はあいつから話を聞いて許せねーって思ったよ」
「だ、だからあのとき、私の前に現れたのね!」
「そうだよ……今の俺なら、お前を振り向かせることくらい、容易いと思ったからな」
「復讐……敵討ち……そう言いたいわけ?」
「いやぁ、さすがに俺も、ここまでの事態になるとは思ってもいなかった……だけど動画撮影の協力をしてよかったぜ……ホント、笑わせてもらったよ茜には」
「そうやって人を上から見て楽しい!?」
「それ、自分で回答しなよ。言っておくけどお前が覚えてないだけで、お前が一千にやったことと同じだからな。これだから無自覚クソ女は困るんだ」
「そうだとしても、ここまでされるようなことしてない!」
「まぁたしかに、あり得ない規模の話になっちまって気の毒とは思うけどな」
「それに、私をあんなキモい男と一緒にすんな!」
「お前のほうがキモいんだよ」
淡々と言葉を返すだけの刀理を見て、私は、もうダメだと思った。
感情が昂ぶりすぎて勝手に涙が出てくる。私はその場に塞ぎこんだ。
「そういうヒステリックなところも昔から変わらないよな~」
刀理はとにかく私に一番精神的ダメージを与えられる態度を選択して見せてくるようだった。
「大丈夫? 俺がそばについているからね?」
走って逃げたかったけど、そう言って私の手を握ってくる彼の手は力強かった。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
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しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
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