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あなたの子を産む


 アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!

 『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!


 ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!



 刀理に連絡を取るまで私は三日も迷った。


 今さら何を話せばいいのか。どんな顔をして会えばいいのか。


 迷いの正体ははっきりしていた。断られるのが怖かったのだ。


 条件も、能力も、金も、すべてを振りかざしてもなお拒絶され続けてきた私が、今度は何も差し出さずに会おうとしている。


 それは、これまでで一番無防備な状態だった。


 結局、私から送ったメッセージは驚くほど短いものになった。


「久しぶり。少し話せる?」


 既読はすぐについた。返事も同じくらい簡潔だった。


『いいよ。いつ?』


 拍子抜けするほど、いつもとおりのやり取り。


 それが逆に、胸の奥を締めつけた。


「できれば今日とか……なるべく早くがいい」


『じゃあ今からね』


「予定とかなかったの?」


『ぜんぜん』


「あれからも彼女とかできてないんだ?」


『あのな。この歳になってそう簡単に彼女とかできるわけないだろ?』


 そんなやり取りをしてから私たちはすぐに会うことになった。


――オドオドしていたのは、私だけなのかもしれない。


 私は前を向いて彼に会うことに決めた。




 待ち合わせたのは昔よく行ったカフェだった。


 付き合っていた頃、特別な思い出があるわけじゃない。


 ただ気づけばよく並んで座っていた場所。


 ガラス越しの午後の光がやけに柔らかかった。


 刀理は先に来ていた。


 変わっていない。でも確実に時間は流れている。


 少し短くなった髪。落ち着いた服装。以前より表情が穏やかだ。


 マスクをしている。どうせ夜中までゲームしたりと不摂生でも祟ったのだろう。


 私を見つけると、彼は軽く手を挙げた。


 その仕草ひとつで胸の奥がざわめく。


「久しぶり」


「うん。茜も元気そうだな」


 他人行儀でもなく、懐かしさに浸るでもなく、ちょうどいい距離感。


 それが今の私には心地よかった。


 注文を済ませ、しばらくは他愛ない話をした。


 仕事のこと。天気のこと。近況。


 刀理は浮遊能力の話を自分から振らなかった。


 私もあえて触れなかった。


 でも、避け続けるわけにもいかない。


「……ねえ」


 私が切り出すと刀理はゆっくりと視線を向けた。


 急かさない。遮らない。待つ姿勢。


「最近、色々あった」


「知ってるよ」


 あっさりと言われて少し驚いた。


「ネットのこと?」


「それも含めて大体ぜんぶ知ってる」


 責めるでもなく、同情するでもなく、ただ、事実として。


「……何も言わないんだね」


「言ってほしい?」


「……わかんない」


 本音だった。


 叱られたいのか、慰められたいのか、肯定されたいのか。


 自分でも、整理がついていない。


 刀理は少し考えてから静かに言った。


「茜が考えて取った行動だったなら、それでいいと思うよ」


 その言葉に胸がチクリと痛んだ。


「それが、間違ってたら?」


「間違えたって、やり直せるでしょ」


 簡単に言う。


 でもその簡単さが条件や契約でがんじがらめだった私にはやけに新鮮だった。


「……私ね」


 気づけば、言葉が溢れ出していた。


 神谷蒼のこと。マシューのこと。ルーカスのこと。炎上。条件交渉。金額。遺伝。世間の視線。そして刀理の動画投稿アカウントを消されてしまったことも謝った。


 自分でも驚くほどすらすらと素直に話せた。謝れた。


 刀理は途中で口を挟まなかった。


 ただ、聞いていた。


 全部話し終えたとき、私は喉がからからになっていた。


「……ひどい話でしょ」


 自嘲気味に言うと、刀理は首を横に振った。


「ひどいのは、話じゃない」


「え?」


「茜が、そこまで追い込まれてたこと」


 その一言で、胸の奥が崩れた。


 同情でも、庇護でもない。


 ただ、私そのものに向けられた言葉。


「ねえ、刀理」


 私は逃げずに刀理の目を見た。


「頭のいい刀理なら、本当は最初から私の価値に気がついていたはず……なのに、どうしてあのとき私に何も求めなかったの?」


 ずっと、聞けなかった質問。


 刀理は少しだけ困ったように笑った。


「求めたら、茜は選べなくなると思ったから」


 その答えに、全身が静かに震えた。


「俺、ずっと茜に選んでほしかった」


 私は、嬉しくて泣きそうになるのを必死に堪えていた。


「……私、ずっと勘違いしてた」


「何を?」


「求められない=価値がない、って」


 刀理は首を振る。


「違うよ。逆」


「え……?」


「大事なことだから、茜自身に俺のことを選ばせたかった」


 その言葉が、胸の奥に深く沈んだ。


――ああ。


 私は、どうしようもなく、刀理のことが好きなんだ……。


「私ね……」


 言葉が、少し震えた。


「もう、条件で選ばれるのは嫌」


「うん」


「能力を欲しがられるのも、嫌」


「うん」


「でも……」


 一度、深呼吸する。


「それでも、子どもを産むなら」


 刀理の視線が初めて少し揺れた。


「あなたの子どもがいい」


 私は、逃げなかった。


「……あなたの子どもなら、産んでもいい」


 沈黙。


 カフェの雑音が一瞬遠のいた気がした。


 刀理はすぐに答えなかった。


 それが、逆にありがたかった。


 軽く受け取られたくなかった。



 お読みいただきありがとうございます。


『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!

 2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!


 悪役令嬢が現代日本に逆転移!?

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 しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。


 ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!


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 配信日:2026年1月6日
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