刀理のこと
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
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刀理が私に何も求めなかった理由。
それを考え始めたのは決して彼を美化したかったからじゃない。
むしろ逆で、よく理解できない行動だったからだ。
人は普通、何かを得ようとする。
それが恋愛でも、友情でも、取引でも。
特に私の周囲に現れた男たちは、誰一人として例外ではなかった。
若い頃は身体であったし、最近は決まって能力、遺伝、話題性、優越感。
それぞれが違う言葉を使っていただけで、根っこにあったのは「得」だった。
なのに刀理だけが一度もその計算に乗ってこなかった。
――じゃあ、何が目的だったの?
最初は「未練」だと思おうとした。
元彼だし。今も彼女すらできないようだし。
情が残っているだけ。優しさの延長。
そう解釈すれば私の中で納得がいく。
でも、それでは説明がつかない部分が多すぎた。
未練があるなら、もっと距離を詰めてくるはずだ。
助ける代わりに関係の再構築を匂わせるはずだ。
でも刀理はいつも一定の距離を保っていた。
近づきすぎず、離れすぎず。
私が一歩踏み込めば、受け止めはするが、自分からは決して押してこない。
まるで私が自然に「何かを選ぶ」ことを待っているかのように。
――もしかして。
そこで初めて、ひとつの可能性が浮かんだ。
刀理は私を選ぼうとしていなかったのではないか。
私に、選ばせようとしていたのではないか。
その考えに至った瞬間、胸の奥がひどくざわついた。
私はずっと、優位な側だった。それに慣れすぎていた。
だから自分から選びにいくという行為そのものをどこかで放棄していたのかもしれない。
自分で決めるより、評価されたほうが楽だった。
拒否される痛みより、条件に従うほうが安全だった。
でも刀理はその構図に乗ってこなかった。
私を評価しなかった。値踏みしなかった。条件を出さなかった。
それは優しさでも、無関心でもない。
責任を返してきたのだ。
「どうするかは、君が決めろ」
刀理にそう言われている気がして、私は無性に落ち着かなくなった。
その不安の正体にしばらくして気づく。
――私は、刀理を軽視していた。
彼が何も求めてこないことを「価値を感じていないから」だと勝手に解釈していた。
求められない=必要とされていない。そう短絡的に決めつけていた。
でも実際は求めないという選択肢もある。
しかもそれは、相手を一人の人間として扱わないと成立しない選択だ。
私はそれをずっと見落としていた。
浮遊能力を得てから、私の周りには選択肢が溢れた。
でもそのどれもが私に選ばせてはいなかった。
『これでどうだ』
『この条件ならどうだ』
差し出されるのは、常に完成されたパッケージ。
私の役割はイエスかノーを言うだけ。
――それで、私は何を選んできた?
金額。条件。世間体。
そして気づけば、心がどこにもなかった。
成功しているはずなのに、幸福感がない。
誰かに必要とされているはずなのに、孤独だけが増えていく。
その違和感の正体がようやく言葉になり始める。
私は、「選ばれたい」と思っていた。
でも本当は、選びたかったのだ。
自分の意思で。自分の理由で。能力を評価されるからではなく、条件が揃っているからでもなく。
その人を選ぶ理由が欲しかった。
そう考えたとき、自然と浮かんだのが刀理だった。
能力を求めなかった男。
それは無欲だったからじゃない。「能力込みでの私」を一度も前提にしなかったということだ。
それがどれほど異質で、どれほど稀有だったのか。
今なら、はっきりわかる。
そして胸の奥にまだ言葉にならない感情が芽生え始める。
――もし。
もし、子どもを産むとしたら。
誰かの期待や、契約や、条件のためではなく。
自分で選んだ理由が必要なのではないか。
そのとき、ふと浮かんだ言葉があった。
まだ声には出せない。形も整っていない。でも、確かにそこにある。
――刀理の子なら、産んでもいい。
それは決意でも、告白でもない。
ただの予感だった。
そして私はその予感を否定しなかった。
ほかには条件なんて、なんにも要らない。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
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