比較
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
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不思議なことにルーカスやこれまで接触してきた男たちの顔は、もうほとんど思い出せなくなっていた。
誰がどんな条件を出したのか。どれだけの金額を提示してきたのか。どんな肩書きを名乗っていたのか。
記録としては残っている。
メモも、メッセージも、スクリーンショットもある。
なのにそれらはすべて同じ色、同じ温度、同じ重さでしか感じられなかった。
『条件』、『能力』、『結果』それだけを見ていた男たち。
彼らは皆、私を選んでいるつもりで、実際には条件の合否判定をしていただけだった。
『浮遊能力があるか』
『遺伝の可能性はどれくらいか』
『世間的なリスクは許容範囲か』
『契約に応じるか』
その問いの中に、「私がどう感じるか」は、一度も含まれていなかった。
そして私は、それを当然の前提として受け入れていた。
――選ばれる側なんだから。
――条件を出されるのは仕方ない。
――むしろ有利な立場なんだから。
そう自分に言い聞かせてきた。
でも今、ふと立ち止まってみると、その前提自体がどこか歪んでいたことに気づく。
条件を出されることと、人格を見られないことは、同義ではない。
それを私は混同していた。
そう考えた瞬間、意図せずある記憶が浮かび上がった。
刀理のことだった。
元彼。今さら言うまでもない存在。
別れてからもう十年は経っているのに私のことを覚えていてくれて、浮遊能力を得て困っていることを相談するとなんの見返りもないのに手を差し伸べてくれた人。
――もうずいぶんと前のことのような気がする。
浮遊能力の話を最初に打ち明けた日のこと。
あのときの刀理の反応は、今にして思えばあまりにも地味だった。
驚きはした。さすがに目は見開いていた。
でも、すぐに問い詰めることもしなければ、動画を撮ろうとも、利用価値を計算し始めることもなかった。
今はもう、彼が初めなんて言っていたのかも思い出せない。
でも、私に寄り添ってくれていたことだけははっきりと思い出せる。
当時の私はそれを物足りないと思っていた。
もっと興奮してほしかった。もっと特別扱いしてほしかった。
『すごいじゃん』
『それ、ヤバいよ』
そう言ってくれる反応をどこかで期待していた。
でも刀理は、違った。
ただ、寄り添って、助けてくれようとしただけだった。
でも、私が差し出してもいないものを、勝手に評価しなかった。
私が世間をこれだけ騒がせても、黙って私からの連絡を待ってくれている。
私を責めようとしない。
彼だって、私の動画のせいで自分のアカウントが消される被害にあっているのに。
どれも見返りを求めない行為だった。
当時の私は、それを「都合のいい元彼」くらいに思っていた。
優しいけど、踏み込んでこない。
頼りにはなるけど、魅力的かと言われると微妙。
そんな評価だった。
でも今、マシューやルーカス、ほかの男たちの態度を思い返したあとで刀理の行動を並べてみると、そこには決定的な違いがあることに気づく。
「私、なんてバカだったんだろ……」
刀理は一度も、私を自分の利益に結び付けようとはしなかった。
私はずっと男を「条件」で比較していた。
年収。肩書き。提示額。将来性。
でも、ここにきて初めて人を見る目が変わった。
何を求めてくるか。そして、何を求めてこないか。
たったそれだけの違いかもしれない。
ルーカスははっきり言った。
「君である必然性はない」
それは残酷だけれど正直な言葉だった。
でも刀理はそんなことを言わなかった。
代わりに、何も要求しなかった。
それがどれほど素晴らしいことだったのか、私は今になって、ようやく理解したのだ。
その事実が、静かに、しかし確実に、私の中に沈んでいった。
そして同時に避けてきた問いがはっきりと形を持ち始める。
――私は、刀理に対して、何をしてきただろう。
与えられることばかりを期待して、彼が何も要求しないことを「物足りなさ」として切り捨てていなかったか。
その問いは、たぶんまだ答えを出すには早い。
でも、比較の軸が変わったことだけはもう後戻りできなかった。
私は、本当は、条件のいい男を探していたのではない。
条件を優先しない姿勢を探していたのかもしれない。
そう気づいた瞬間、刀理という存在が、これまでとは違う輪郭で私の中に立ち上がり始めていた。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
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