代替性
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
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そのルーカスの言葉は、雑談の流れで投げられたものだった。
あまりにも自然で、あまりにも事務的で、だからこそ逃げ場がなかった。
「誤解しないでほしいんだけど」
ルーカスはそう前置きしてから、タブレットを指でなぞり、こちらを見もせずに続けた。
「君である必然性は、正直ない」
一瞬、意味が理解できなかった。
会議室の空調の音がやけに大きく聞こえて、私は反射的に「……え?」と聞き返してしまった。
ルーカスは眉ひとつ動かさず、淡々と説明を続ける。
「条件が同じなら、誰でもいい。年齢、健康状態、能力。その条件を満たすなら、相手は君じゃなくても成立する話だ」
まるで保険の説明みたいな口調だった。
私は何か言い返そうとして、言葉が出てこないことに気づいた。
怒りでも、悲しみでもなく、頭の中が真っ白になる感覚。
「ただ、君が一番早く、かつ現実的な条件を提示してきた。それだけの話だよ」
それだけ。
たったそれだけの理由で、私はこの席に座っている。
「浮遊能力もね」
ルーカスはそこで、初めて私のほうを見た。
視線は冷静で、評価するような目だった。
「唯一無二の奇跡、みたいに扱われてるけど、実際は違う。遺伝するかどうかは確率論でしかない。再現性も検証段階だし、素材として見れば、特別でもなんでもない」
素材。
その言葉が耳の奥に残った。
「君個人に価値がないと言ってるわけじゃない。誤解しないでほしい。今はまだ唯一性が確保されている」
誤解も何もなかった。
むしろ、理解してしまった。
――ああ、そうか。
私は“選ばれた”んじゃない。
たまたま条件が合致しただけ。
浮遊能力という切り札すら奇跡でもなんでもなく、使えるかもしれない要素のひとつに過ぎない。
「もし明日、私と同じ能力を持った二十代の女性が現れたら?」
ルーカスは仮定の話として軽く肩をすくめた。
「合理的にはそちらを選ぶ。それだけだ」
胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。
私はずっと思っていた。
少なくともこの世界において自分は唯一の存在だと。
空中に少しでも浮ける女は、私だけだと。
それが、私を支えていた。
だからどれだけ叩かれても、どれだけ嫌われても、どこかで踏ん張れていた。
でも。
その“唯一性”すら、冷静に分解されてみれば代替可能な部品でしかなかった。
「この話、君がいなくても成立する。でも、今は君だけなんだ」
ルーカスの言葉が、決定打だった。
私がいなくてもいい。私でなくてもいい。私じゃなくても、世界は同じように回る。
それは、今までネットで浴びせられてきた悪口よりもはるかに静かで、はるかに深く、心に刺さった。
私はただ頷いた。
怒鳴ることも、泣くこともできなかった。
代わりに理解してしまったからだ。
――私は、ここでは“人”じゃない。
契約条件のひとつ。確率論の一項目。選択肢の中のたまたま一番効率が良かった存在。
「今日の話は、記録には残さない」
ルーカスはそう言って立ち上がった。
「感情的になる必要はない。君は何も間違っていない」
その言葉が、ひどく遠く聞こえた。
彼が部屋を出たあと、私はしばらく動けなかった。
机の上に残された資料を見つめながら、ようやく一つの結論に辿り着く。
――これは、私の人生じゃない。
私は、誰でもいい話の中に自分を押し込んでいただけだった。
そしてその自覚が、じわじわとやって来る刀理との比較を、逃れられない形で呼び寄せることになる。
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『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
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