調子に乗る
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
境目はたぶん自分でも気づかないほど曖昧だった。
最初は「条件を整理しているだけ」だった。
次は「相手の本気度を測るため」。
そして気づけば、それは「ふるいにかける快感」にすり替わっていた。
私は、条件を書き換え続けていた。
『年収〇〇以上』
『将来の生活水準は維持できること』
『精神的に自立していること』
『私の能力に過剰な干渉をしないこと』
それらは一見、もっともらしい。
だが、行間に滲んでいたのは明らかな選民意識だった。
――私には、それだけの価値がある。
そう思わなければ、ここまで来た意味がなくなる。
メッセージのやり取りは減っていた。
以前のような殺到はなく、反応は鈍く、慎重になっているのがわかる。
それでも私は条件を下げなかった。
むしろ、少しずつ釣り上げていた。
金持ち男性――マシューの提示した「3億」という数字が、どうしても頭から離れなかった。
あのときは、拒絶された側だった。
見下されたとすら感じた。
だからこそ、私は自分に言い聞かせていた。
――あれは特別だった。
――あれほどの条件を出す男が、もう一人くらいいるはずだ。
だが、現実は残酷だった。
3億どころか、1億を明確に提示してくる男は現れなかった。
多くは曖昧な言葉で包み、将来性や可能性で誤魔化してくる。
『今はそこまで出せないけど、将来的には』
『一緒に事業を考えたい』
『君の能力を活かせば……』
――それ、聞き飽きた。
私は、返事をしなくなった。
あるいはわざと冷たい文面を返した。
『具体的な数字は?』
『それで私に何のメリットがありますか?』
すると相手の態度はすぐに変わる。
『思ってた人と違いました』
『ちょっと打算的すぎませんか?』
私はその言葉に苛立ちながらも、内心で嘲笑していた。
――今さら、何を言ってるの?
最初からあなたたちが見ていたのは私の能力でしょう?
今になって純粋さを求めるなんて都合が良すぎる。
だがネットは容赦しなかった。
匿名掲示板、まとめサイト、SNS。
どこかで誰かが私の発言や条件を切り取って晒し始めていた。
『調子に乗りすぎ』
『ただの一般人が何様』
『能力ガチャ当たっただけで人生勝った気になってる女』
私は、それらを見ないふりをした。
見れば心が削れる。
でも完全に無視もできない。
エゴサーチをやめられない自分がいた。
スクロールするたび、胸の奥がざわつく。
『3億拒否したってマジ?』
『自分の立場わかってなさすぎ』
『そのうち誰にも相手にされなくなるぞ』
――うるさい。
私の人生、あなたたちに何がわかる。
私はスマホを強く握りしめた。
たしかに後悔がないと言えば嘘になる。
マシューの顔。
あの余裕のある微笑み。
交渉を切り上げたときの、冷えた視線。
――あのとき、3億で飲んでいれば。
そう思う夜は一度や二度ではなかった。
だが同時に、そんな考えを必死で打ち消す自分もいた。
――違う。
――私は、もっと上に行ける。
そうでなければ、これまでの失敗も、炎上も、孤立も、すべて無駄になる。
私は自分の価値を信じ続けるしかなかった。
だから条件はさらにエスカレートする。
『海外生活も視野に』
『私の意向を最優先できること』
『干渉しないが、支援は惜しまないこと』
それはもう対等な関係ではなかった。
支援者を求め、保護者を選び、スポンサーを探している。
それでも私は、それを認めなかった。
――私は、選んでいる側。
ネットでは反感が積み重なっていく。
『典型的な勘違い女』
『結局、金しか見てない』
『能力がなきゃ誰も見向きもしないのに』
私は画面を閉じ、深呼吸をする。
胸の奥で、小さな不安が蠢いている。
――本当に、まだ私は選ぶ側なのだろうか。
だがその問いに向き合うには、私はもう引き返せないところまで来ていた。
条件を下げることは、負けを認めることだ。
私はマシューによって金銭感覚を吊り上げさせられたのか? いいや違う!
身の丈を認めることは、マシューの判断が正しかったと認めることだ。
それだけはできなかった。
私は今日も、誰とも会わず、誰とも触れ合わず、条件だけを磨き上げていく。
まるでそれが自分自身の価値そのものだと信じるかのように。
――調子に乗っている?
そう言われるたび、私は心の中で答える。
違う。
これは生き残るための交渉だ。
そう思い込まなければ、私はきっと、ここで折れてしまうから。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











