男、殺到
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
気づけばマッチングアプリは出会いの場ではなくなっていた。
通知音が鳴るたびに私は肩をすくめる。
メッセージは一日に何百件、ひどい日は千件近く届いた。しかもそのほとんどが似たような文面だった。
『はじめまして! ニュース見ました!』
『とても特別な能力をお持ちなんですね』
『真剣に将来を考えられる方を探しています』
最初はまだマシだった。
だが二通目、三通目を開くと必ず同じ方向へ話が流れていく。
『もし子どもができたら……』
『遺伝の可能性ってどれくらいなんですか?』
『研究機関と繋がりがあって……』
――ああ、またこれだ。
私はスマホを伏せて深く息を吐いた。
誰も私を見ていない。
茜という人間ではなく、『浮遊能力を持つ女の子宮』だけが画面の向こうで値踏みされている。
中には隠そうともしない男もいた。
『正直に言います。子ども目的です』
『愛情とかは二の次でいいので』
『能力さえあれば、生活は保証します』
あまりの率直さに怒りよりも先に笑いが出た。
――ここまで来たか。
だが、厄介なのはそうではない男たちだ。
言葉は丁寧で、絵文字も適度、趣味の話や仕事の話を挟み、いかにも普通の恋愛を装ってくる。
けれど油断した頃に必ず来る。
『ところで、将来的な家族観なんですけど』
『子どもって好きですか?』
私はもう疲れ果てていた。
選ぶ側のはずなのに消耗する一方だ。
ある夜、ベッドに横になりながら私はふと気づいた。
――これ、逆じゃない?
つい最近までは、私が選ばれる立場だった。
プロフィールを整え、写真を厳選し、条件を下げ、妥協して、頭を下げるようにやり取りをしてきた。
でも、今は違う。
少なくとも需要だけは異常なほどある。
その需要が歪んでいるとしても、だ。
私は翌日、アプリを開き、設定画面をじっと見つめた。
「……もう、いいや」
退会ボタンを押す指は、驚くほど迷わなかった。
未練も、寂しさもなかった。
むしろ、せいせいした。
その代わり、私は自分で動くことにした。
匿名性の高い場所、噂が広まりやすい場所。
掲示板、クローズドなコミュニティ、紹介制のサロン。
私はそこで「条件」を提示した。
――こちらの条件ではない。
相手に、条件を出させるのだ。
『年齢』
『年収』
『家族構成』
『婚姻歴』
『子どもに対する考え方』
『私に何を求めるのか』
返信はすぐに殺到した。
まるで入札だ。
金額を匂わせる者。社会的地位を誇示する者。海外移住のプランを語る者。
私は淡々と読んだ。
心は不思議なほど動かなかった。
以前なら「すごい会社だな」「年下だけどしっかりしてる」そんなふうに一喜一憂していたはずなのに。
今は、違う。
私は完全に面接官だった。
そして気づいてしまった。
条件が良くなればなるほど、相手の目が冷たく澄んでいくことに。
彼らは私を褒める。
だがその褒め言葉はどれも同じ場所に向かっている。
『君の能力は素晴らしい』
『歴史に名を残す存在だ』
『子どもが生まれたら……』
私は相手の顔も知らないまま、選別を続けた。
――条件が一番いい男。
それを選べば、きっと楽になる。
生活も、世間体も、将来も。
そう思っているはずなのに、胸の奥に、薄く不快な膜が張り付いていた。
私はいつからこんなふうに考えるようになったのだろう。
恋愛が、結婚が、子どもが、条件と効率の話にすり替わったのは、いつからだ。
だが、今さら立ち止まることはできない。
私はもう、後戻りできない場所まで来ている。
アプリを捨て、選ばれることをやめ、条件で人を選ぶ側に回った。
その事実が私を少しだけ強く、そして確実に孤独にしていた。
――それでもいい。
私は画面の向こうに並ぶ男たちの条件を見比べながら、そう自分に言い聞かせた。
ここまで来たのだ。
ならばせめて、一番いい条件を掴まなければ。
それが私が選んだ生き残り方だった。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
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