動き始めた世界
アマゾナイトノベルズ様より2026年2月3日配信開始!
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!
マシューが去ったあと、私の周囲から何かが静かに、しかし決定的に崩れていった。
最初は、ほんの小さな違和感だった。
朝、スマホを開くと通知が異様に多い。
見慣れないアカウントからのフォロー申請、リプライ、DM。ほとんどは中身のない一言か、絵文字だけのものだったが、その数が異常だった。
「……なに、これ」
胸の奥が、じわりと冷える。
私は、検索欄に自分の名前を打ち込んだ。
表示された候補ワードを見た瞬間、指が止まった。
『浮遊 遺伝』
『FBBA 子ども』
『あの女 子孫』
嫌な予感が、確信に変わる。
タップすると、そこにはもう“私の知らない私”がいた。
掲示板、まとめサイト、動画のコメント欄、SNSのスレッド。断片的だった情報が勝手に繋ぎ合わされ、ひとつの物語として再構築されている。
『あれ、冷静に考えてさ』
『浮いてる能力、身体能力じゃなくて生物的な異常だよね』
『なら遺伝する可能性、普通にあるくね?』
誰かの軽い一言が、火種だった。
それに続くように専門家でもなんでもない連中がもっともらしい言葉を並べ始める。
『優性遺伝とか劣性遺伝とかあるじゃん』
『突然変異なら、むしろ子に出やすい』
『進化論的に考えると~』
見当違いもいいところの理屈が、勢いだけで拡散されていく。
そして必ず出てくる。
『それ以前にFBBA出産不可能www』
『人類の夢が最初で最後www』
『いや、見た目は普通にアリだろ! 問題は中身と年齢だけでwww』
私は、スマホを投げた。
――やめて。
だが、世界は止まらない。
数日後には、動画投稿者たちが嗅ぎつけてきた。
『【考察】浮遊能力は遺伝するのか?』
『人類の進化か? それともバグか?』
『もし浮遊する子孫が生まれたら、これからの世界はどう変わる?』
サムネイルには私の顔写真。勝手に切り取られ、加工され、煽り文句が添えられている。
そのコメント欄はもう地獄だった。
『正直、産ませるべき』
『国が管理しろ』
『もう本人の意思とかどうでもよくね?』
ぞっとした。
人はここまで簡単に「人」を「素材」に変えられるのか。
そしてその流れの中で必ず名前が出てくる。
――マシュー。
『そういえば金持ち外国人が代理出産を持ちかけたって話なかった?』
『見る目ありすぎだろ』
『逃げたの正解だったな』
私は、唇を噛みしめた。
違う。
逃げたんじゃない。
捨てられたんだ。
だが、世間の評価は違った。
マシューは「先見の明があった男」として語られ始める。
『倫理的にはどうかと思うけど、ビジネスとしては正しい』
『いやダメだろイメージ悪すぎる』
『事実かどうかわからん憶測やめろ』
『FBBAをネタに、マシューの評判を落とす陰謀論』
『感情じゃなく遺伝リスクを見たんだろ』
『あの女の魚拓見ろ。すべての答えがそこにある』
私の過去の発言、レスバ、あの殺害予告まがいの一文まで、すべてが引きずり出される。
『こんなのが母親になるとか無理』
『遺伝するのは能力だけじゃないって話』
気づけば話題の中心はもう私ですらなかった。
浮遊能力を持つ人間の子どもという存在しない“未来”が、勝手に消費されている。
『浮遊ベビー爆誕したら世界変わる』
『軍事利用不可避』
『宇宙開発ワンチャン』
笑えない冗談が、笑いながら拡散される。
私は画面を見つめながら、ようやく理解した。
マシューが見ていたのは私ではない。
私を取り巻く“その後の世界”だったのだ。
感情で揺れる私。
承認欲求に飲まれる私。
立場を勘違いする私。
それらがすべて、未来の混乱要素になることをマシューは最初から見抜いていた。
そして、世間は今、同じ地点に辿り着きつつある。
『遺伝、するんじゃね?』
その一言が、冗談でも妄想でもなく、「議題」になった瞬間から、私の人生は完全に別のフェーズに入った。
もう、元には戻らない。
私が何を望むかなんて、誰も興味がない。
重要なのは、私の身体が、私の能力が、次に何を生み出すか。
世界はようやく気づき始めた。
マシューがずっと前に見ていた場所に。
お読みいただきありがとうございます。
『現実世界に追放された悪役令嬢はモブを育てる』 第2巻!
2026年2月3日 アマゾナイトノベルズさま より配信開始!
悪役令嬢が現代日本に逆転移!?
戸籍も、頼りも、お金も、住処すらない絶望的な状況。
しかも「人を一生愛せない呪い」まで掛けられていて……。
ぜひぜひ応援よろしくお願いいたします!











